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2011/03/10   割増賃金の種類、割増率、計算ルールとは

割増賃金の種類、割増率、計算ルールとは◆Vol.9

法定労働時間・所定労働時間の違いに注意を


2011年2月23日 菅原 由紀(川口社労士法人・社会保険労務士)


ポイント

 割増賃金とは、時間外・休日労働、深夜労働に対して支払う賃金を言います(労基法第37条)。時間外労働とは、法定労働時間(原則1日8時間)を超えた労働です。労働契約で決められた所定労働時間を超えた労働提供があったとしても、法定労働時間内であれば、原則割増賃金は発生しません。

 割増賃金は近年、未払いなどの問題で賃金トラブルの一因ともなっています。トラブルを未然に対処するためには、法律的に正しい知識が必要です。割増賃金を理解する上では、法定労働時間、割増賃金の種類、割増率、計算方法がポイントとなります。

法定労働時間と所定労働時間

法定労働時間… 労働基準法で定められた労働時間で、休憩時間を除く1日8時間、週40間(特例は44時間、10人未満の医療機関が該当)。
所定労働時間… 労働契約、就業規則などで定められた始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を差し引いた労働時間。

割増賃金の種類と割増率

 割増賃金は、主に3種類に区分されます。

 【表:割増賃金の種類と割増率】
 

 支払い条件に該当した場合、割増賃金を支払う義務が生じます。また、前提条件として、上記の割増賃金が発生する労働を職員にさせるためには、時間外・休日労働に関する協定(「36協定」)の締結が必要です(労基法第36条)。

割増賃金の計算方法

 割増賃金は、時間単位で計算する必要があります。そのため、月給制や日給制の場合でも、1時間当たりの賃金を求めなければなりません。時間単価は、以下の方法によって求めます。

◆月給制の場合
 1時間当たりの賃金=(賃金総額-法定除外手当(※1))÷1カ月平均所定労働時間(※2)
※1:法定除外手当… 家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われる賃金、1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金の限定7項目。ただし、家族手当や通勤手当などは、実態に沿った支給内容でなければ割増賃金の対象になるため、注意が必要。
※2:1カ月平均所定労働時間…1年間を平均して1カ月の所定労働時間を算出したもの。
◆日給制の場合
 1時間当たりの賃金=日給額÷1日の所定労働時間
◆時給制の場合
 1時間当たりの賃金=1時間の時間給

 1日の流れにおける割増賃金計算

 1日の流れに沿って割増賃金を計算すると、以下のようになります。

例1)時間外労働の割増率【所定労働時間が午前9時から午後5時(休憩1時間)】


法定時間内残業:17:00-18:00⇒1時間当たりの賃金×1.00(※)×1時間
※ ただし、労働契約、就業規則などで法定時間内(所定時間外)労働も割増をすると定めた場合は1.25以上
法定時間外残業:18:00-22:00⇒1時間当たりの賃金×1.25×4時間
法定時間外残業+深夜:22:00- 5:00⇒1時間当たりの賃金×1.50(1.25+0.25)×7時間

例2)法定休日労働の割増率【午前9時から午後12時まで労働(休憩1時間)】

休日労働:9:00-22:00⇒1時間当たりの賃金×1.35×12時間
休日労働+深夜労働:22:00-24:00⇒1時間当たりの賃金×1.60(1.35+0.25)×2時間

1週間の流れにおける割増賃金計算

 1週間の流れに沿って割増賃金を計算する場合は次の2つの基準で判断します。

(1) 1日の労働時間が8時間を超えているか…超えた時間は割増対象
(2) 次に週の労働時間が40時間(特例は44時間)を超えているか…超えた時間は割増対象。ただし、(1)の判定で割増の対象となった時間は控除

例)1日7時間勤務の医院で週42時間勤務した場合【木・土4時間で午後休診】
 (特例ではない、法定労働時間超25%増しとして)

(1) 1日8時間の基準でみると、金曜日が9時間で1時間の割増賃金対象(25%増)。
(2) 1週間の合計は42時間で2時間(42-40=2)が割増賃金対象(25%増)。ただし、(1)で1時間の割増が発生しているので、2時間の内、残り1時間が割増対象。(1)と併せて2時間が割増対象(25%増)となります。木、土は、所定労働時間を超えていますが、法定労働時間を超えていないので、割増の対象とはなりません。