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開業物件

2009/01/30   戸建てでの開業が不安

Q 戸建での開業を勧められています。借入金も多額になると予想されますので、不安なのですが・・・
m3QOL君でコンシェルジュをしているRMLの安川です。

開業を成功させるためにはご家族の協力・支援が不可欠ですよね。特に奥様は専業主婦からクリニック経営者になるわけですから不安も沢山お持ちだと思います。
各地で開催している『奥様医業経営塾』などで聞いた開業を控えた奥様の不安を専門家に答えてもらいます。また、『開業前にこんなことを知っていたらよかった』という先輩奥様のアドバイスを特集します。

今回は、東京で診療所の開業や経営のご相談をたくさん受けていらっしゃるアドバァンス会計の松野淳子税理士に聞いてみました。
安川 聡
RML株式会社
取締役 安川 聡
松野税理士は、実はご主人が東京でクリニックを開業されており、院長婦人という立場でもあるのです。
奥様の立場で、開業前から現在まで関わってきた経験が伝わってくる回答です。
特に、開業を視野に入れている先生の奥様方にもお読みいただきたいと思います。


松野 淳子開業には戸建開業(自宅開業)と賃貸物件によるいわゆるビル診開業とがあります。地域性の問題もあります。都心部では新規に土地を購入し、診療所も建設して開業することは、土地探しや高額な資金調達を勘案すると、現実的にはほぼ不可能といえるでしょう。
一方、郊外でしたら資金調達ができれば自宅兼診療所を開業することは可能です。
ただし、金融機関も以前は簡単に融資してくれましたが、現在はドクターの開業といっても、厳しくなっています。借入れにあたっては 地に着いた堅実な事業計画が必要となります。

また戸建開業の場合でも、「すでに所有している自宅を改築する」、「新築する」、「居ぬき(手直しせず設備等そのまま)で購入する」などが考えられます。診療所だけ自宅とは別の場所に建設するということもあるでしょう。
ビル診療の場合も 新規に内装を施す場合と居ぬきの場合があるでしょう。規模の違いもありますので、それぞれの場合によって初期コストは大きく違ってきます。
当然 自宅と一緒に新しく建設するのが資金的には最も費用がかかるでしょう。逆に、居ぬきの賃貸でビル診開業するのがコストを最も低く抑えることができます。 

戸建開業のメリットとしては、借入金でスタートしたとしても、ゆくゆくは個人の財産となることです。
お金さえかければドクターの理想の診療所をもつことができます。
また自宅が職場ですから通勤時間がゼロになりタイムロスが防げます。お子様が小さくても奥様のお手伝いが容易となります。
以前は 休日も関係なく来院する患者さんが多かったようですが、最近では休日診療所の整備が進みましたので、さほど休日を邪魔されるということはないようです。
デメリットは、当然借入金が多額になりますので、収入が当初の事業計画どおりにいないと借入金の返済が滞ってしまい、最悪は経営破綻というリスクを負っていることです。先生が結局バイトに行かなければならなくなってしまったという例も実際にあります。
よく間違えられるのですが借入金の返済は、経費にはなりません。支払利息だけが経費になります(ただし自宅部分は経費にはなりません)。借入金元本の返済は利益の中から行うことになります。自宅部分については住宅借入金の控除という税額控除の制度もありますが、合計所得が3000万円以下という制限があります。
このように見ていくと、返済計画の重要性をご理解いただけると思います。つまり事業計画がしっかりしていないと大変なことになってしまうわけですね。

また、開業すると多かれ少なかれ奥様の負担が発生してきます。経理、総務等事務方の仕事を担われている開業医の奥様は大変多くいらっしゃいます。特に自宅と一緒となると 家族にかかる負担もより増えることになります。奥様の協力が不可欠となるでしょう。
診療所の管理なども奥様の仕事になってきますし、女性の立場からすると3食世話をするということは、多くの奥様がかなりな負担と感じると思います(笑)。なかなか家を空けられなくなることも事実です。
経営が波に乗り、規模を拡大したり、医療法人化したりするなど、次のステップに進む場合も新たな大きいコストが生じることも考えられます。 

また多くの場合、職住接近となるので、日常の生活圏の中で患者さんに出会うことが多くなります。常に院長先生としての顔、院長婦人としての顔を求められるようになるのではないでしょうか?
スーパーでの買い物も見られることになり それが苦痛でテナント開業でしたが引越しをされた先生もいらっしゃいます。些細なことのようですが、それなりに覚悟は必要でしょう。

戸建開業に対して、ビル診などで小規模に開業することのメリットは 初期コストが抑えられることです。
借入金で開業するとしても月々の返済にかかる負担は少なくすみます。順調に行けば早期に返済も終わり、次へのステップのための蓄えも可能となるでしょう。逆に規模を縮小する場合も簡単にできます。
また、職住が離れますので、当初は奥様にお手伝いをお願いするとしても軌道に乗れば勤務医当時に近い生活パターンとなります。とは言え、経理等のお手伝いだけは、奥様が続けていらっしゃることが多いようですが。
デメリットは 借りている限り診療所が自分の財産にはならないことでしょう。通勤も発生します。
奥様が当初お手伝いする場合、お子様が小さいときは通勤が負担になります。さらには、予想以上に患者数が増えたときに狭くなってしまうことがあります。ただしこの場合は新しく広い場所に移転することによって解消するのは難しくはありません。

以上のように開業パターンによって、ハード面だけでなくソフト面にも影響があることをしっかり認識しておきましょう。どんなパターンで開業をするにしろ開業するときは、あらかじめ初期段階できちんと先生のポリシーを反映しながらも無理のない堅実な事業計画を立てることが肝心です。開業することがゴールではありません。そこからがスタートなのですからその後を見据えた事業計画が必要となります。
計画しているうちにどんどん夢が膨らみ、“やるならば”と無理な出費を重ねていくケースも多く見てきました。その結果次から次へと借入れをしてしまい、自転車操業となってしまった事例もあります。

事業計画の立て方については いろいろな見地により数値は変わってきます。
医療の世界にもセカンドオピニオンが定着してきたように、一生に一度の大事な大きな転機となるわけですから、開業プロジェクトの根幹になる事業計画については立場の異なる複数の専門家にご相談されるのがよいと思います。そして良い開業をし、成功していただきたいと思います。


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