2014/07/17 開発者に聞く!最新内視鏡システム
オリンパスは、消化器内視鏡の市場で約7割の世界シェアを占めています。更なる観察性能の向上や大腸内視鏡検査におけるドクターの操作性向上などを目指し、「EVIS LUCERA ELITE(イーヴィス ルセラ エリート)」という新しい発想の技術を数多く搭載した新システムが開発されました。
今回はこのEVIS LUCERA ELITE開発者による解説をお届けします。
オリンパスメディカルシステムズ株式会社
第1開発本部 内視鏡開発部長 木村 英伸氏
機械工学科を卒業後、工業用内視鏡の開発を希望してオリンパスメディカルシステム社へ入社。工業用内視鏡のファイバースコープ開発などに携わり、2年目から医療用内視鏡の開発を手がける。以後、主に海外向けの内視鏡ビデオスコープシステムの開発に従事。
3つのコンセプトを掲げました。 (1)使いやすさの向上 (2)高精細な観察画像の実現 (3)信頼性の向上 です。これらを実現するには、これまでにない発想と地道な検証が必要となりました。
内視鏡検査について、「苦しい」「痛い」といったイメージを持っている方が多くいらっしゃるかもしれません。しかし、内視鏡は昔に比べると体内への挿入部は径が細くしなやかになり、機構的にもさまざまな工夫がなされていますので、それほど苦痛は感じないという患者様が増えています。
ただ、まったく苦痛がないとは限りません。例えば、大腸の内視鏡検査や処置においては、先生が肛門から大腸スコープの先端部を挿入し、手元で操作部を操作しながら腸内を進めていきます。大腸には90度以上に曲がった部分もあります。そうした箇所で湾曲部が腸壁を押すと、患者様は鈍い痛みを感じることがあります。
手技に長けた先生はこうした難しい部位も上手に切り抜けて進まれますが、今回はより多くの先生がもっと簡単に使えるようにできないかと考え、大腸スコープの湾曲部手前に受動湾曲部を搭載しました。湾曲部が腸壁に当たって力がかかると、この受動湾曲部が自動的にしなります。そうすることで、腸壁を押す力は内視鏡先端部が先に進む力へと変換されるよう工夫しました。
「高伝達蛇管(じゃかん)」と名付けたシャフトです。腸内を大腸スコープがしなやかに進むようにするためには、シャフトは柔軟にしたいと考えました。しかし、そうなると、先生がシャフトを押し込んだりねじったりする力が腸に負けてしまい大腸スコープが進んで行かない、という問題が生じます。
シャフトの断面を見ると大きく3層に分かれています。それぞれが異なる素材で構成されているので、シャフト自体の曲げ・ねじりによってそれぞれの構成物がこすれあい、シャフトに加えた力にロスが発生し、スコープへの力の伝達にもロスが生まれます。あるとき、社内のエンジニアが、「構成物同士の干渉を無くしてスムーズに動くようにすると大腸スコープの先端に力が伝わり易くなるのではないか」と言いました。このアイデアを具体化するため、製造部門と共に製造プロセスを1から見直し、客観的な比較データを得るために、模型を自作し、繰り返し実験を行いました。試行錯誤の結果、しなやかなのに力がしっかりと伝わるシャフトとこれを作る製造プロセスの実現にこぎつけることができたのです。
具体的に言うと、NBI(Narrow Band Imaging:狭帯域光観察)と呼ばれる観察手法の改善となります。NBIは、オリンパスが独自に開発して2006年に実用化した観察手法です。内視鏡で病変を観察するとき、普通は光の三原色である赤、緑、青(RGB)を合わせた白色光で観察します。これに対して、NBIでは赤を除いた青と緑の光で観察します。がんか否かを判別する手がかりとして、粘膜表面の毛細血管の形状や集まり方を見ることが重要です。NBIでは血液中のヘモグロビンが青色光を吸収して粘膜表面の毛細血管を浮かび上がらせることで、がんなどの微細病変部を見やすくします。
この技術を使った内視鏡を発売して以来、「早期がんの診断に有用」とのご意見をいただくことができました。ただ「もう少し明るくなれば使いやすいのだが」というご要望も頂戴しました。NBIでは光の波長を2つの狭い帯域に絞っているために、光量が減って白色光での観察に比べて暗くなるのですが、現場でご使用になる先生が使いにくいとお感じになるのであれば、メーカーとしては改善する責務があると考えました。
2つの手法で取り組みました。1つは、光源自体の改良です。内視鏡の観察光は、ビデオスコープシステムの光源装置にキセノンランプを内蔵し、グラスファイバーを通してその光を内視鏡の先端に導きます。今回、病変の観察が白色光からNBIに切り替わると、システムがその変化を検出して、光源装置内のランプを明るくするように改善しました。また、システムのレンズやミラーなどの機械的な精度を上げることで、ランプの光を内視鏡のグラスファイバーに漏れなく集めるようにしています。
もう1つは、フィルター構成の抜本的な見直しです。通常光による観察では、光源の中にRGB(赤緑青)の回転フィルターがあり、そのフィルターを通った赤、緑、青の光が順に照射されます。一方、NBIによる観察では、光はまずNBIフィルターを通り、そこで緑と青に絞り込まれた光が回転フィルターを通過します。しかし、そもそも赤色光がないのですから、R(赤色)のフィルターがかかるときは何も照射されないことになります。
今回、赤色のフィルターがかかるタイミングに青色のフィルターを入れ込み、露光回数を増やすために、今回、EVIS LUCERA ELITE専用の回転フィルターを設けました。専用フィルターでは、NBIに切り替えた際に赤色のフィルターの代わりに、青色のフィルターをかける仕組みになっております。従来は回転フィルターが一周する間に2回しか光を照射していなかったのが3回照射できるようになり、従来以上の明るさを実現できたのです。
最大のチャレンジとなったのが、「デュアルフォーカス」機構の採用です。内視鏡検査をしている時に、発見した病変をよく見ようと粘膜に近づいていくと、一般的な内視鏡では一定の距離以上に近づくと病変部にピントが合わず像がぼやけてしまいます。ピントの合う距離が定まっているためです。また、拡大観察機能を搭載した特殊な内視鏡では、拡大観察を行うとピントが合う距離が非常に狭くなってしまいます。そのため、拡大観察操作レバーを動かしながら、内視鏡の先端をほんのわずかに前後させてピントの調整をし、観察しなければなりません。手元から離れたスコープ先端部でこの操作を瞬時に行うには、熟練した技術が必要でした。
今回、「通常観察」と「近接拡大観察」の2段階のピント切り替えができるデュアルフォーカス機構を開発して、この課題の解決に取り組みました。粘膜や毛細血管など対象物に接近した観察でも、スイッチを押すだけでピントが合わせやすく、容易に高精細な画像が得ることができます。
内視鏡を使用する場面における看護師など医療従事者の方々の業務簡略化を図り、取り扱いミスによる故障を極力防止することにより、信頼性を高めることを狙いました。
今回のシステムでは、システムとスコープを接続するコネクターの形状を一新しました。これまでのように、スコープを挿してケーブルを接続して、というプロセスが不要になり、スコープと光源装置およびビデオプロセッサーをワンタッチで確実につなげられます。 加えて、接続部の完全防水を実現しましたので、スコープ使用後の洗浄・消毒を行う際に、スコープをそのまま消毒液に浸漬できるようになりました。従来はスコープの一部に防水キャップをその都度装着する必要がありました。これで、防水キャップの付け忘れを原因とする内視鏡の故障は限りなくゼロに近づけることができましたし、装着の手間も軽減できるようになりました。
※この記事は、オリンパス株式会社のWEBサイトに掲載されている「オリンパスの技術 EVIS LUCERA ELITE」編を本企画用に再構成したものです。
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