2013/08/29 所得税の負担増とクリニック経営の対策
個人が 1 年間に得た所得に課税されるのが 所得税 です。
勤務医の場合は給与所得者ですので、あまり意識することはありませんが、開業医は事業所得者のため、税務署で確定申告をおこない、税金を納める必要があります。
所得税の発想は生活税にあります。仮に 100 万円の収入があっても 45 万円あれば人並みの生活は送れるだろうから 55 万円を税金として収めなさい、というわけです。個人の暮らしを発展させる税体系とは言えません。特にそうした色あいが強かった時代は、75% という税率だったこともありました。
現在、所得税の最高税率は 40% ですので、以前に比べるとだいぶ下がったと言えます。
ところが平成 27 年よりこの最高税率が 45% に引き上げられることになりました。住民税や復興特別所得税をあわせますと、約 56% もの高税率です。高所得層のかたがたにとって、今まで以上に資産を守っていくことが必要な時代に突入したと言えるでしょう。
高齢化が進む日本において、社会保障をはじめとした財源不足は重要な課題です。一方でメーカーの海外移転などで産業の空洞化も問題になっており、長期的に国力が落ちていくことを避けるためにも、企業を国内に引きとめておくことが重要になっています。
そこで大きな方向性として法人の負担を軽くし (設備投資減税など)、その分、個人の負担を重くするようになると考えられています。
以前より医療法人化にはメリットが多かったのですが、ますますその有用性は高くなったと言えるでしょう。法人化決断の分岐点は下がっていくものと思われます。
所得税の最高税率引上げによる影響を具体的な数値を用いて説明します。
【前提条件】
● クリニック利益を年 5,000 万円とします(役員報酬控除前)
● 法人化した場合の医療法人から受ける院長報酬を年 3,000 万円とします
また、計算の簡素化のため、以下の仮定に基づいて計算します
● 法人税率は一律 25.5%、住民税率は法人税額の 17.3% とします
● 震災復興税を考慮しません(個人・法人とも)
● 事業税は考慮しません(保険診療は非課税のため、個人・法人とも)
● 均等割は考慮しません(個人・法人とも)
改正前:所得税の最高税率が 40% の場合
改正後:所得税の最高税率が 45% の場合(所得 4,000 万円超)
改正前の法人化による税額メリット ([1]-[2]) が 5,125 千円であるのに対して、改正後はさらに差額が拡大し、 6,483 千円となります。現時点では確定していませんが、将来法人税率が引き下がった場合には、上記差額はより一層広がることとなります。
言い換えますと、現在の税制というルールの上では、一日も早く法人化を成し遂げた方が、より多くの財産を形成できるという構図が成り立っているのです。
個人事業主は稼いだ事業所得に対して否応なしに課税されます。すなわち、流れてくる水に対して即座に課税されることとなり、所得税額をコントロールすることができません。一方、医療法人は流れてくる水をいったん貯めておき、そこから必要とされる分を院長報酬として支給することで所得税額をコントロールすることができます。法人に残った水については、保険金として積み立てておくことや経営に従事する親族に対する報酬原資として活用することができます。最終的には、退職金として法人の残余財産額を受けることで、トータルの税負担を軽減することができるのです。
1.個人と法人で適用される税率差は大きく、実効税率が個人より約 25% 低くなる
2.給与所得控除のメリットが享受できる
3.親族などが経営に従事することで所得分散が可能となり、家計単位での税負担を軽減することができる
4.生命保険の掛け金を損金にでき、退職金の原資を確保することができる(退職金は給与の約半分の税負担で受けることができます)
5.個人の必要経費と比べ、法人の経費にできる範囲が広くなる
MS 法人とは「メディカルサービス法人」のことで、クリニックとの取り引きをおこなう株式会社などのことです。
医療法人と同様に所得分散が可能となりますので、上手に活用すれば、節効果を得ることができます。ただし、節税を通じて資産を MS 法人に移転するので、クリニックとの取引条件が一般慣習と大きく乖離していると、恣意的な利益供与があるとして、税務否認されることが良くあります。
次回の最終回は、「相続税と出口対策」 をお届けします。
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