2013/03/28 ポケットエコーを活用した診断事例
本特集では、実際にポケットエコーを使用されている先生がたの事例をお伝えしております。
第 1 回では、在宅緩和ケアにおけるポケットエコー Vscan の活用事例をご紹介いたしました。
第 2 回では、
1. 心不全診断、
2. AAA (腹部大動脈瘤) 診断、
3. むくみ・胸痛診断における、携帯型のポケットエコー Vscan の活用事例
をご紹介いたします。
ポケットエコーの特徴は、実際の診療現場でどのように活用するのか、ケース別にお伝えいたします。
診療の時間短縮、よりよい治療、患者とのコミュニケーションが得られ、
一石二鳥にも三鳥にもなりうる
心エコーにより直接肺を観察することで、肺うっ血の診断や重症度評価が可能なことが以前から知られている。
肺うっ血を示す症例においては肺の表面から後方に向かって尾を引く高エコー像が観察されることが知られており、Ultrasound LungComets:ULCs と言われる。
この原因は肺小葉間隔壁の浮腫性肥厚によるエコーの多重反射と言われており、心不全の診断において感度・特異度に優れるサインである。 (図 1-1、1-2)
[Picano E et al, J Am Soc Echocardiogr.2006:19:356-363]
ULCs は、浮腫性肥厚をきたした肺表面に近い肺小葉隔壁で生じるエコーの多重反射によって生じると考えられ、胸部 X 線のカーリー B ラインに相当するものである。また軽症の肺うっ血でも認められ、重症化するにつれてその数は増加すると言われている。
ULCs の評価をすることは、肺うっ血の診断に役立つと言われている。
またこの ULCs は、治療によってうっ血が改善するのにともない、減少することも知られており、心不全の診療治療の経過観察において、有用であると考えられる。
[Mallamaci F et al, J Am Coll Cardiol.2010:3:586窶・4]
これらの評価はポケットエコーでも十分可能であり、比較的簡単な検査であると考えられるため、外来や往診など、レントゲンや血液検査などの詳しい検査がすぐにできない状況における心不全の診断、重症度診断、治療効果判定において、身体診察などに併用すべき重要な所見の一つであると考えられる。
ULCs の他にも心拡大の有無、心収縮能 (図 2)、壁運動異常の有無・程度、弁膜症の存在の有無・重症度、下大静脈径・呼吸性変動、胸水の有無の評価 (図 1) は、心不全の診断のみならず、重症度評価、基礎疾患の診断、治療経過の判定などにおいて重要である。
ポケットエコーを用いれば日々の診療の際にこれらを同時に評価することができ、診療の時間短縮ができるばかりか、よりよい治療、患者とのコミュニケーションが得られ、一石二鳥にも三鳥にもなりうる。
このようにポケットエコーを用いた心機能や弁膜症、心不全などの評価を行うことができれば、救急の現場や開業医の往診、病棟のベッドサイドでの速やかな病態評価、治療の開始に貢献することができると考えられる。
腹部大動脈瘤発見ツールとしての携帯型エコーVSCAN
患者の救命に役立てたい
2012 年 8 月現在、日本の 60 歳以上の人口は約 4 千万人で、腹部大動脈瘤 (以下 AAA) の有病率 [(1) 女性で約 1%、(2) 男性で約 8%] を 5% として概算すると、日本の AAA 患者数は約 200 万人と推測される。
AAA が破裂した患者の約半数は死亡し、病院に到着できた場合もその [(3) 半数は死亡する]。
つまり、AAA が破裂した場合は 1/4 しか救命できない、大変予後不良な疾患である。
一方で、AAA の危険因子は男性、加齢、喫煙、アテローム性動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患、感染症 / 炎症、外傷、家族歴だが、これらの因子を有する方は多く、AAA の発見方法が課題となっている。
AAA が破裂した患者の手術死亡率は 30~70% で、非破裂の AAA では約 7% といわれており、非破裂のうちに治療をおこなうと、手術による死亡のリスクを 1/10 に減らすことができるが、AAA は破裂するまでほぼ無症状であり、非破裂で AAA を発見するには触診とエコーが重要となる。
触診
肝臓などの悪性疾患をみるため、あるいは肝臓の硬さをみるために腹部触診を行う医師は多いと思うが、AAA 発見のチャンスでもあるということを再認識してほしい。
患者を仰臥位にし、両膝を立てた状態で、手のひら全体で腹部を触っていく。触診では実際の血管径に比べかなり太く感じるが、それでも拍動性の腫瘤を触れた場合は、一度はエコーなどの画像診断をすべきである。
一方、リスクファクターがあるが、太っていて触診してもよくわからないといった時も画像診断が必要となる。腹部大動脈の分岐部は臍の高さ、腎動脈分岐部はおよそ胸骨下端と臍の中間点にある。胸骨下端から臍までの狭い範囲を触診するだけで、AAA を発見するチャンスとなる。
エコー
次に行うのがエコーである
。エコーはその簡便さがメリットだが、本当に簡単におこなうためには小さい携帯型エコー Vscan が便利である。すでに使い慣れている医師は多いと思うが、これを AAA の発見ツールとしても使用してはどうか、というのが私の提案である。
これはすぐ施行できるのが特徴である。
ハイエンドのエコー装置は電源差込、起動など、検査を行うまでに一定の時間を要するが、携帯型エコー装置は起動に 20 秒ほどかかるが、開くだけで準備が完了する。この簡便さが AAA 発見のチャンスを広げている。
さらにエコーは痛くない、侵襲性がない検査である。
エコーは腹部との密着が良好であることがポイントだが、強く押せば見えるというものではない。探触子を全面にあてるというのがポイントである。
実際の Vscan の映像を見ていただければ分かるとおり、誰でも簡単にみることができる。この外来で可能なエコーと触診を組み合わせることにより、かなりの率で AAA が発見できるのではないかと予想されている。
高血圧・喫煙・家族歴がある 60 歳以上の症例には、一度触診およびエコーをおこなうべきと考える。エコーでぜひ、破裂前に発見するチャンスを増やし、患者の救命に役立てていただきたいと思う。
在宅診療のシーンで診断や患者さん、ご家族への説明に活用できる
つばさクリニックは、300 人以上の患者を診療する、岡山県初の在宅専業診療所です。
つばさクリニックの中村幸伸院長に日々の診療にどのようにエコーを活用しているのか、お話をうかがいました。
その場で診断や治療に結びつけていけるところです。
聴診器一つで患者の家へ行かなければならなかった時代と比べて、体の中がすぐにわかります。診断とか治療に、その場で結びつけていけるという点で意味がある機器だと思います。
Vscan については、緊急時用で、簡易的に今すぐ見たい時には持って行きやすいです。計測自体はそこまでできなくても、画像は非常にきれいだと思いますし、カラーをあてて、大体の逆流の具合をみることができる点が良いです。
当施設の腹部領域担当の先生も、腹水胸水などを中心に、とりあえずお腹の状態をさぐる意味で頻繁に活用しているようです。
ケース1:むくみの原因を確認
慢性心不全のため在宅フォローをしていた方が、定期の診察時に体のむくみを訴えられた時のことです。
胸部症状も息切れもなく、ちょっと顔がむくんでいるかなというくらいだったのですが、Vscan をあてたところ弁の逆流が増加し、下大静脈の腫脹がみられ、心不全の悪化がわかりました。
ケース2: 胸痛の原因を確認
胸痛があり、心筋梗塞や狭心症を疑う患者さんがいましたが、身体所見だけではっきりした事はわかりませんでした。
持っていた Vscan をあて、左室の壁運動を確認したところ、心筋梗塞でも狭心症でもないことがわかり、よかったなということがありました。
このように、問題がないことを目で確認でき、すぐに除外診断をすることができるのもこの装置のメリットですね。
また、患者さんやご家族への症状の説明にも活用できます。
テーマ別にご紹介させていただいたポケットエコー Vscan の活用事例。
特徴がはっきりとしているエコーだけに、活用方法はさまざまなようです。
今後、さらに使用される先生が増えることで、活用ノウハウも増えていき、ますます患者 QOL の向上につながっていくことは間違いありません。
Vscanには、本体(プローブ付き)、バッテリー、ドッキングステーション、 AC/DCアダプタ、microSDカード、USBケーブル、ソフトケース、取扱説明書を含みます。
製造販売:GEヘルスケア・ジャパン株式会社
販売名称:汎用超音波画像診断装置 Vscan
医療機器認証番号 第221ABBZX00252000号
LOGIQ e Expert(GEヘルスケア・ジャパン)
医療機器承認番号:218ABBZX00060000 |
Venue 40(GEヘルスケア・ジャパン)
医療機器承認番号:221ABBZX00092000 |
CardioHealth Station(パナソニック ヘルスケア)
医療機器承認番号:223ABBZX00097000 |