2016/08/11 医院開業資金調達の事前確認ポイント
医院開業が本格的にスタートするタイミングは資金調達からと考えられることができます。物件の契約金に融資資金を充てる場合、開業前賃料の負担を考えると、融資後は半年程度を目安に内装や医療機器、電子カルテの導入、人材募集などを次々に実行していく必要があるためです。今回は資金調達の基礎的な情報と注意点についてご紹介します。
開業資金は「設備資金」「運転資金」と使途別に調達します。融資の審査に必要な資料は、経歴に関する資料の他、事業計画書、確定申告書、住宅ローンなどの借入金残高、預貯金・株・投資信託・保険などの金融資産の状況が分かる資料などです。そのため資金調達をする前にまずは借入金残高や金融資産、不動産の有無について確認しておきましょう。
一般的に、自己資金は開業資金全体の10~20%が目安と言われます。自己資金が「ほとんどゼロ」だと銀行などから融資を引き出しにくい例もありますが、融資審査は借入先により異なり、また、低金利の時代ですから、開業資金のほぼ全額を融資により賄う例もあります。つまり、資金を調達する際は借入先も十分に比較検討する必要があると言えます。
また、資金調達については税務署からヒアリングされるので、親兄弟や親戚・縁者などから借り入れをする場合は必ず借用書や返済事実を示す書類(振込明細など)を用意しておくことが大切です。返済事実が確認できないと「贈与」とみなされ、「贈与税」が課税されます。
開業を考えている一方で、マンションや戸建て住宅などを購入して多額の借金を抱え込んでしまうと、融資を受けられないのではないか、と心配される先生もいらっしゃいます。借金に対する捉え方は金融機関により異なります。決めつけることなく、開業融資に積極的な金融機関、実績のある金融機関に相談をしましょう。
先生のご年齢や開業場所、資金使途によりますが、無担保・無保証人・団信付きの場合、総額5000万円~1億円の調達が可能です。借入先は都市銀行、地方銀行、日本政策金融公庫、自治体制度融資、医師信用組合、ノンバンクなどです。借入金額が1億円を超えるような場合は担保を求められる場合があります。都市銀行の中にはクリニック開業向けパッケージ商品(融資と医療機器リース)もあり、その場合、金額が大きくても担保が不要という例もあります。
一般的に、借入金を考えるときに、少しでも【金利が低い】ことを最優先して借入を判断しようとする方が多いですが、金利が低いからといってすぐに決定せず、下記の項目について各担当者から説明を受け、確認してから融資を決定してください。
※持ち家などの自宅や親族の所有する不動産等
●担保なしの場合、一般的に借入枠(借入金額が抑えられる傾向にあり、借入そのものが認められないケースもある
●担保となる物件の金額が高いほど、金利・金額の面で有利な条件での借入(低金利・借入金額の拡大)が可能になる
●開業資金計画の中で、自己資金(自己の預金・親族からの金銭支援等、借入に頼らない資金)の割合が多いほどリスクが低いと判断され、借入が認められやすい
●全体の融資金額のうち、一定割合以上の自己資金の保持が、貸付の要件とされる場合がある。公庫の場合は無担保、無保証人であれば、借入金額の10分の1の自己資金が要求される
●担保物件と同様に、保証人無しの場合借入枠が抑えられる傾向にあり、借入そのものが認められないケースもある
●保証人の年収・年齢も審査の対象となる
●一般に、保証人の年収が低い、保証人の年齢が高いほどリスクが高いと判断される
●借入の名目は設備資金(建築費や医療機器の購入費)と運転資金(賃料、光熱費等)に分けられる
●一般的に設備資金は長期低金利、運転資金は短期高金利
●設備資金、運転資金の金利が同じケースもある
●借入期間が長いほど金利の支払いは増え、返済総額も大きくなる代わりに、月々の返済額は抑えることができる
●月々の資金繰りを考慮した場合、借入期間はできる限り長く設定したほうが、医院経営上得策である場合が多い
●借入当初は、金利を低く抑え、一定期間経過後に金利の見直しを行う変動金利か、相対的に高めの金利を設定し、金利の見直しのない固定金利かを選択できる
●変動金利の場合、一定期間経過後に金利見直しが入るため、将来に対する利上げリスクを排除できない
●平成28年から始まったマイナス金利の状況下においては、金融機関の設定金利も低く、固定と変動の差が少ないため、固定金利を選択することも一つの策といえる
金利と返済方法
種 類 | 特 長 | |
金利 | 固定金利 | 変動なし |
変動金利 | 上昇リスク有り | |
返済方法 | 元金均等返済 | 元金部分の返済額と元金残高の利息を払う |
元利均等返済 | 元金と利息を含めまいかい均等額を払う |
●金融機関からの借入には、「据置(すえおき)期間」を設定することができる
●据置期間とは、返済当初の3月~12カ月程度は元本を返済せず、金利のみを支払う期間を指す
●金利の支払いが増える分、返済金額は増えるが、開業スタート直後の資金繰りの厳しい時期に月々の返済金額を抑えられるため、据置期間はできるだけ長く設定したほうが、医院経営上得策とされる
ノンバンクは銀行に比べネガティブなイメージが先行しているようにもみえます。しかし、地域によっては最も融資条件が良い場合もあるため、あくまで融資条件を軸にノンバンクを含め、調達先を検討するとご安心かと思います。
公的金融機関については、手続きなどが煩雑な独立行政法人福祉医療機構より、日本政策金融公庫をお勧めします。無担保・無保証人の場合、設備資金1500万円、運転資金1500万円、計3000万円を上限として借入ができます。実際に2000万円程度までは比較的容易に融資を受けることができます。担保を設定する場合、担保価値が高いほど増額融資が見込めるので、2億円の不動産を担保に、事業資金の半額1億4,000万円を引き出すことに成功したという先生もいるそうです。
医師信用組合は埼玉県や愛知県、大阪府などの医師会も運営しており、融資メニュー・条件・限度額等はそれぞれ異なります。たとえば、愛知県医師信用組合の「テナント開業ローン」は無担保(要保証人)で最高5,000万円、返済期間は固定・変動金利ともに最長20年(措置期間最長2年)に設定できるケースもあるようです。
融資の決め手は次回の配信で取り上げる「事業計画書」ですが、最終判断は、やはり融資担当者が、年齢、診療科目、開業場所と勤務先の距離、創業計画書の数値的な妥当性で判断します。一方で、非の打ち所がない事業計画書を提出しても、人柄に問題があると判断されれば融資が頓挫したり、減額されたりする可能性もあります。ですから、面接では、先生の実意や熱意、前向きな人柄をアピールすることが重要です。
資金調達は次の順番で考えていくことをお勧めします。
1. 金融資産の整理
2. 創業計画書の作成
3. 資金調達先の検討
・地方銀行
・ノンバンク
・日本政策金融公庫
・都市銀行