医療法人の5つのM&Aスキームを専門家が解説|失敗しないための完全ガイド
医療法人のM&Aについて、具体的にどのような方法があるのか、自身に最適な選択肢はどれなのか、とお悩みではないでしょうか。
医療法人のM&Aは、一般的な企業のM&Aとは異なり、医療法や医師法などの専門的な知識が不可欠です。適切なM&Aの手法を選択しなければ、思わぬトラブルに巻き込まれるリスクもあります。
本記事では、年間2,500件以上の継承希望医師から問い合わせを受けるエムスリーが、M&Aの主要な5つのスキームをわかりやすく解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、ご自身のクリニックの状況に合わせた最適なM&Aの選択肢を理解し、成功に向けた第一歩を踏み出すことができます。
医療法人のM&Aの基本|なぜ今注目されているのか?
クリニックのM&Aが注目される3つの理由
少子高齢化が進む日本では、地域医療を支えるクリニックの存続が大きな社会問題となっています。
- 開業医の高齢化と後継者不足:
厚生労働省のデータによると、全国の約10万件の診療所のうち、院長が60歳以上を占める割合は56%にも上ります。一方で、親族内に後継者がいないケースが増加しており、多くのクリニックが廃院の危機に直面しています。 - 医師の働き方の多様化:
以前は「開業医」が医師のキャリアの最終目標とされることが多かったのですが、近年は勤務医としての安定した働き方やプライベートを充実させた働き方、より専門性の高い分野での活躍を望む医師が増えています。 - 地域医療の維持:
クリニックが閉院すれば、その地域から医療サービスが失われ、地域住民の健康に大きな影響を与えます。M&Aは、地域医療の空白地帯を作らず、良質な医療提供を継続させるための有効な手段となります。
「事業譲渡」と「持分譲渡/基金譲渡」の2つの主要な手法
医療法人M&Aには、大きく分けて「事業譲渡」と「持分譲渡/基金譲渡」の2つの主要な手法があります。
- 事業譲渡:
医療法人そのものは手元に残したまま、「事業」を後継者となる医師や他の法人に譲渡する手法です。建物や医療機器などの資産、患者情報、従業員との雇用契約などを個別に引き継ぎます。 - 持分譲渡/基金譲渡:
医療法人の「経営権」を譲渡する手法です。医療法人そのものの法人格を後継者に引き継ぎます。持分あり医療法人の場合は「持分」を、持分なし医療法人(基金拠出型)の場合は「基金」を譲渡します。
この2つの手法を理解することが、医療法人M&Aを成功させるための第一歩です。ここからは、これらの手法について、さらに詳しく見ていきましょう。
【図解】医療法人M&Aの5つのスキームを徹底解説
医療法人のM&Aは、法人の種類(持分あり/なし)や譲渡対象によって、大きく5つのスキームに分類されます。それぞれのスキームの概要とメリット・デメリットを、図解を交えて解説します。
1. 医療法人M&Aの最も一般的なスキーム「持分譲渡」
持分譲渡は、出資持分のある医療法人のM&Aに用いられる手法です。
【持分譲渡の仕組み】
- 譲渡側: 医療法人の出資者(社員)
- 譲受側: 後継者となる医師
- 取引対象: 出資者が保有する出資持分を、後継者に譲渡します。
- 法人格: 医療法人そのものは法人格を維持したまま、経営権が後継者に移行します。
【メリット】
- 手続きの効率性: 事業譲渡のように個別の資産や契約を引き継ぐ手続きが不要なため、手続きが比較的簡便です。
- 許認可の維持: 法人格が変わらないため、保健所や都道府県への開設許可の再取得が不要です。
【デメリット】
- 潜在債務のリスク: 譲受側は、譲渡側医療法人の簿外債務(帳簿に記載されていない借入金など)や偶発債務(将来発生する可能性のある債務)をすべて引き継ぐことになります。
- 譲渡価格の算定が複雑: 出資持分の価値を算定する際に、法人の純資産だけでなく、将来性やブランド価値(のれん代)なども考慮されるため、専門的な知識が必要です。
2. 持分あり医療法人のM&Aスキーム「事業譲渡」
事業譲渡は、診療所や病院の事業を、後継者となる医師(個人)や他の医療法人に引き継ぐM&Aのスキームです。
- 譲渡側: 医療法人
- 譲受側: 譲受側の医師や他の医療法人
- 取引対象: 診療所の事業資産(建物、医療機器、患者情報、従業員との雇用契約など)を個別に譲渡します。
- 法人格: 譲渡側の医療法人は、そのまま存続します。事業を譲り受けた後、別の事業に転換するか、解散手続きを取るか選択できます。
【事業譲渡の仕組み】
- 譲渡対象の資産を選べる: 譲渡したい資産だけを選別して引き継ぎ、不要な資産や負債を切り離すことが可能です。
- 手続きが比較的シンプル: 持分譲渡に比べ、出資者の同意や社員総会の承認プロセスが不要なため、手続きが比較的スムーズに進むことが多いです。
- 廃院リスクの回避: 事業譲渡により後継者に事業を引き継ぐことで、クリニックを閉院させることなく、地域医療への貢献を継続できます。
【メリット】
- 煩雑な手続き: 資産や負債、契約などを個別に引き継ぐ必要があるため、手続きが煩雑になることがあります。
- 許認可の再取得: 譲受側は、診療所の開設許可を新たに取得する必要があります。
【デメリット】
3. 持分なし医療法人のM&Aスキーム「基金返還請求権譲渡」
基金返還請求権譲渡は、持分の定めのない医療法人(基金拠出型)のM&Aに用いられる手法です。
- 譲渡側: 医療法人の社員
- 譲受側: 後継者となる医師
- 取引対象: 譲渡側の社員から後継者へ、社員の地位を承継し、それに伴って後継者が基金を引き継ぎます。
- 法人格: 医療法人そのものは法人格を維持したまま、経営権が後継者に移行します。
【基金譲渡の仕組み】
- 法人格と許認可の維持: 持分譲渡と同様に、法人格が維持されるため、許認可の再取得が不要です。
- 手続きの効率性: 事業譲渡のように個別の資産や契約を引き継ぐ手続きが不要なため、手続きが比較的簡便です。
【メリット】
- 潜在債務のリスク: 持分譲渡と同様に、潜在債務を引き継ぐリスクがあります。
- 譲渡対価が限定的: 基金はあくまで法人の活動の原資であり、拠出された額までしか返還されません。そのため、一般的に事業譲渡や持分譲渡と比較して、譲渡対価が低くなる傾向があります。
【デメリット】
4. 特殊なスキーム「吸収合併」
吸収合併は、複数の医療法人が一つになるM&Aスキームです。合併により、一方の医療法人は消滅し、もう一方の医療法人が存続法人として事業を引き継ぎます。
- 譲渡側: 消滅する医療法人
- 譲受側: 存続する医療法人
- 取引対象: 消滅する医療法人のすべての権利義務(資産、負債、契約など)を、存続する医療法人が包括的に引き継ぎます。
- 法人格: 消滅する医療法人は解散します。
【吸収合併の仕組み】
- 包括的な引き継ぎ: 資産や負債を個別に引き継ぐ必要がなく、包括的に承継できます。
- 組織のスリム化: 複数の法人が一つになることで、組織の効率化やコスト削減が期待できます。
【メリット】
- 手続きが複雑: 合併契約書の作成、債権者保護手続き、社員総会の承認など、厳格な手続きが必要です。
- 文化の融合が困難: 組織文化や運営方針の異なる法人が一緒になるため、スムーズな統合が難しい場合があります。
【デメリット】
5. 特殊なスキーム「吸収分割」
吸収分割は、医療法人の事業の一部を、他の医療法人に移転するM&Aスキームです。
- 譲渡側: 事業の一部を切り出す医療法人
- 譲受側: 事業を受け取る医療法人
- 取引対象: 医療法人の事業の一部を、譲受側の医療法人に移転します。
- 法人格: 譲渡側の医療法人は存続し、事業の一部のみを切り離します。
【吸収分割の仕組み】
- 柔軟な事業再編: 複数の事業を営んでいる医療法人が、特定の事業のみを切り離すことができます。
- 資産・負債の選択: 承継する資産や負債を個別に選択できます。
【メリット】
- 手続きが複雑: 吸収合併と同様に、法務局への届け出や債権者保護手続きなど、複雑な手続きが必要です。
- 従業員の同意: 事業移転に伴う従業員の配置換えなどについて、個別の同意が必要になる場合があります。
【デメリット】
医療法人M&Aの譲渡価格はどう決まる?
医療法人M&Aの譲渡価格は、単に医療機器や不動産の価値だけで決まるわけではありません。ここでは、譲渡価格の算定方法について解説します。
譲渡価格の算定方法
医療法人の譲渡価格は、主に以下の2つの要素から構成されます。
1. 法人の純資産価額
純資産 = 資産合計 - 負債合計
純資産価額は、現金、預金、医療機器、土地、建物などの資産から、借入金、未払金などの負債を差し引いた金額です。
譲渡の際には、貸借対照表上の帳簿価額ではなく、時価に再評価して計算します。
例えば、貯蓄性のある生命保険などは、積立金として資産に計上されていますが、継承時には解約に伴う解約返戻金が発生するため、簿価額と解約返戻金の差額を追加で受け取ります。そのため、純資産も+同額をを上乗せして評価します。
2. 営業権(のれん代)
営業権(のれん代)とは、貸借対照表に記載されていない無形の価値のことです。具体的には、以下のような要素が評価されます。
- ブランド力: 地域での知名度や評判
- 患者数: 安定した患者数やリピート率
- 立地: 駅からのアクセスや周辺環境
- 診療圏: 競合クリニックの状況
- スタッフの質: 優秀な医師、看護師、医療事務の存在
- 自由診療の売上: 自由診療による収益性
これらの要素を総合的に評価し、将来の収益性を加味して営業権の金額が算出されます。
譲渡価格 = 純資産価額 + 営業権(のれん代)
エムスリーが「高額な評価額」を実現できる理由
エムスリーでは、サービス開始以来300件を超える支援実績があり、他社よりも高額な評価額(譲渡価格)を実現できる可能性があります。
その理由は、国内最大級の医師会員基盤にあります。
日本の医師の9割以上、34万人以上が利用する「M3.com」を活用し、全国の継承希望医師に情報を届けます。
- 毎年2,500件以上の新規開業希望者から問い合わせがあります。
- 貴院の診療科目やエリア、譲渡時期に合った最適な候補者へ、匿名での情報(ノンネーム)を効率的にアプローチできます。
- 複数の候補者から、最も条件の良い後継者を選ぶことができます。
豊富な候補者の中から最適な買い手を見つけることで、クリニックの価値を最大限に評価してもらい、より高い譲渡価格での交渉が可能になります。
医療法人M&Aを失敗しないための3つのポイント
医療法人M&Aを成功させるためには、事前の準備と専門家のサポートが不可欠です。
1. 専門家との早期の相談
「まだ引退は先のことだし…」と思っている先生も、まずは専門家に相談することをお勧めします
後継者探しには時間がかかる場合があり、良い候補者と出会うためには、余裕を持った準備期間が重要です。
エムスリーのコンサルタントは、先生の希望やクリニックの状況を丁寧にヒアリングし、最適なリタイアプランをご提案します。
2. 専門性の高いM&A仲介会社を選ぶ
医療法人のM&Aは、税務、法務、行政手続きなど、専門的な知識が多岐にわたります。
医療業界に特化していない仲介会社に依頼すると、思わぬトラブルに繋がるリスクがあります。
エムスリーでは、医療法人のM&Aに精通した専門家が、マッチングから譲渡契約の締結まで、一貫してサポートいたします。
3. 秘密保持の徹底
M&Aの情報が不用意に外部に漏れると、従業員の離職や患者の不安を招く可能性があります。
エムスリーでは、会員規約により守秘義務を負っており、先生の許諾なしに情報を外部に提供することはありません。
また、後継者候補への情報提供も、初期段階ではクリニックが特定されないノンネーム情報に限定することで、情報漏洩のリスクを防ぎます。
まとめ|まずは専門家にご相談ください
医療法人M&Aは、院長先生のハッピーリタイアを実現し、地域医療を守るための有効な手段です。
- 事業譲渡: 資産を選別して譲渡できる
- 持分譲渡/基金譲渡: 法人格を維持したまま経営権を譲渡できる
- 吸収合併/吸収分割: 複数の法人による事業再編に活用できる
どのスキームが最適かは、クリニックの状況によって異なります。
エムスリー医院継承サービスは、国内最大級の医師会員基盤と、医療M&Aに精通した専門家による一貫したサポートで、先生の理想の継承を支援します。
ご相談は無料です。少しでもご興味のある方は、まずはお気軽にお問い合わせください。



