2016/07/28 開業後の運転資金の重要性
晴れて医院を開業された先生の当面の目標は、経営を軌道に乗せることです。医院経営は収支のバランスが取れている必要がありますが、開業直後は収入が安定しないためご苦労された先生も多くいらっしゃいます。今回は毎月の必要経費を把握することの重要性や開業後に必要な運転資金の考え方についてご紹介いたします。
開業すると、勤務医時代とはまったく異なる種類の苦労に直面することになります。その最大のものがお金に関することです。開業当初は、保険請求分の入金が2ヵ月後ですから、収入が全く無いのに、家賃や従業員の給料、ローンの支払いなど費用は出て行く一方です。口座の残高がみるみる減少していく心細さを経験されますが、中には1桁まで減ったという先輩開業医もいらっしゃいます。収支がプラスに転じるまでは、そのストレスに耐える忍耐力が求められます。金銭的なプレッシャーが診療に影響することは最も避けなくてはなりません。患者には、敏感に伝わるからです。
もし運転資金が足りなくなった場合、新たに借り足さなくてはなりませんが、開業前は金融機関も知人も貸してくれたのに、開業後に借りるのは大変困難だったという話もよく聞きます。開業後の経営状態に対する不安感を与えてしまうからです。そのような事態を避けるためには、開業時点で生活費とは別に毎月の必要経費の約6ヶ月分、具体的には1,000~2,000万円の運転資金を用意することが必要とされています。
※上記の収支は一例です
クリニックの主な収入は、「診療単価×患者数」で表せます。診療単価は診療科目によって異なりますが、内科系なら一般的に5,000円ほどでしょうか。支出は家賃、人件費、リース料、医療材料費、薬剤購入費、外注検査費、ローン返済、保険料などです。税金の支払いや患者数の季節変動などを視野に入れながら、資金不足が生じないよう毎月の収支のバランスを見る経営感覚が求められます。
内科で無床診療所を開業した場合のおおまかな収支は、診療単価が5,000円とすると、1日に30人の患者が受診すれば、ある程度の生活レベルが保てると試算できます。必要経費は、当然個々のケースによって異なりますが、たとえば表のような収支が考えられます。
患者数が見込み通りに増えてくるかどうかが、クリニック経営の命運を分けます。地域の宅地開発が進まないために患者数が伸びないといったケースや、順調に経営していたのに突然近所に競合クリニックができて苦しくなったなど、さまざまな想定外のことが起こる可能性があります。
予測との乖離に対してどのように手を打っていくかが、まさに経営手腕の見せどころといえます。経営を安定化させるために、少しでも早く採算軌道に乗せたいところですが、自分なりの診療スタイルが固まってきて、スタッフも定着し、家庭的にも落ち着いてくるのが、開業して1年ほど経った頃だと多くの先輩開業医はいいます。最初の1年をしのげれば、あとはその延長でいける可能性が高いといえるでしょう。しかし、経営面で安定してくるのはまだまだ先で、開業3~5年後だといわれます。
ベテラン開業支援コンサルタントによると、開業当初の苦しい時期をしのいで確実に成功に結び付ける医師には、ある共通のパターンがみられるそうです。特徴の1つは、いずれ患者数が増えて黒字になると信じて、何があっても動じないことです。グラつかない信念が成功を呼び込むのでしょう。
2つ目の特徴は、有能なブレーンがいることです。有能な奥さんや医療事情に詳しい税理士さんは、強力なブレーンとなります。また、鮨屋の店主、スナックの経営者、中小企業の社長など、同じ経営の苦労を分かち合うことができる地域の人たちは、新米院長のよいブレーンになってくれる可能性があります。気軽にどこでも顔を出す社交性は、開業を成功させるための大事な資質といえるでしょう。