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税理士・公認会計士

2021/03/30   これって経費OK?グレーゾーンの判断軸

これって経費OK?グレーゾーンの判断軸

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開業医の先生はもちろん、確定申告をされる勤務医の先生も多いことから「税に関する悩み」は医師にとっても身近なトピック。コロナ禍が訪れたこともあり、様々な公的な支援策が講じられているとは聞くものの、ご自身にもそれが適用されるのかどうか分からないといったお悩みをお持ちの先生も多いのではないでしょうか。
そこで本企画では、医師から寄せられる税に関するお悩みについて、医師からの相談実績の多い現役税理士の方にうかがいます。

【今回のご質問】
どこまでを経費として計上して良いのか、目安を教えていただけますか。(開業医、40代男性)

【今回答えてくださった方】
沓掛 伸幸(くつかけ のぶゆき)

税理士法人TOTAL代表社員(税理士・CFP・医業経営コンサルタント)
開成高、一橋大卒。明治安田生命(相)を経て2007年税理士法人設立に参画。医療機関をサポートするTOTALグループを全11拠点にて展開。

経費として認められるか否かは、最終的には税務署の判断によります。「税務署の判断」とは、税務署の税務調査の際に、否認されなかったということです。この、「否認されなかった」には、3つのパターンがあります。①税務署が確認しなかった項目、②税務署が確認したが、否認されなかった項目、③税務署が確認し、問題ありとしたが、今回限り認めるとした項目、です。このうち、③は次回の税務調査では、必ずチェックされる項目となりますので、税務調査後の年度は、税務署の指導通りの処理(経費としない処理等)が求められます。したがって、経費の範囲は、①と②の項目が増えるに従い増えていくこととなります。

なお、法律上は以下のとおりです。

第三十七条 …事業所得の金額…の計算上必要経費に算入すべき金額は、…当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用・・・の額とする。

第四十五条 (家事関連費等の必要経費不算入等)
…次に掲げるものの額は、…必要経費に算入しない。
一 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの

所得税法施行令第96条(家事関連費)第九十六条
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が…業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費

税務調査時には、その経費が業務用か、プライベート用(家事関連費)かが問題となりますが、前述のとおり規定されていますので、業務用かプライベート用か明らかに区分できないものは経費として認められないことが前提となります。

したがって、あいまいなものは、明らかに区分している資料(すくなくとも先生の側でそう考える資料)を準備しておくことが必要です。

税務調査の際の確認方法

一般的には金額の大きな科目から確認が行われ、売上、仕入、人件費、家賃などが真先にチェックされます。その後、その他の科目のチェックとなります。経費か否かグレーなものがあったとしても、全体の金額バランスで少額なものは問題となりにくい傾向があります。逆に、金額が大きいものは詳細にチェックされますので、先生としては業務用と考えていたとしても、業務用かプライベート用か明らかに区分できる資料がないとの理由で経費と認められないこともあり得ます。

例えば車関係の経費です。
一般的に、車関係の経費は業務用とプライベート用の按分が求められ、業務用の使用割合により、2,3割~8割程度を経費とするのが一般的です。

この車の経費計上について、税務署側と争った事例があります。
勤務医が、医療コンサルタントを兼業していたこの事例において、勤務医側は、車関係費の約70%を医療コンサルタント業(事業所得)の経費としました。「土、日も接待交際に車を使用していること」、「医療コンサルタント業において24時間対応するため、待機用として車が必要なこと」などの事情により按分を行ったのです。これに対し、税務署側は、「勤務医としての通勤と医療コンサルタント業のための移動が同日の場合で、事業割合が明確でない場合」や「車を利用して目的地に移動したことが取引の記録等により明確でない場合」は、当日の全額を経費と認めないとし、按分割合は9%としました。業務用かプライベート用か明らかに区分できる資料がないとの理由で経費と認められなかった事例です。

一方で、100%の経費計上が認められた事例もあります。開業医が通勤に車を利用し、車関係の経費を全額計上していた事例です。税務署側は、クリニックの休診日分、週2日分をプライベート用として按分するよう主張しました。これに対し、開業医側で、ETCの履歴等の資料により反論したところ、100%の経費計上が認められました。

これらの例から、経費として計上するためには、合理的な根拠とそれを証明する資料が重要であることがご理解いただけると思います。特に経費か否かのグレーゾーンでは、税務署側の指摘も厳しいとなるので、時にご注意いただきたいと存じます。

以上のとおり、経費、特にグレーゾーンを経費として認めさせるためには、「根拠」、「金額」、「資料」を準備し、総合的に組み立てていくことが必要です。先生のご説明だけでは、税務署側が納得しないケースも多くなりますのでご注意ください。


いかがでしたか。本企画では引き続き、現役税理士の方に「医師の気になること」を掘り下げていただく予定です。
そのほか、税務に関してご相談されたい先生方は是非こちらからお問い合わせくださいませ。