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電子カルテ

2021/03/11   費用、安全性、サポートは…?ゼロからわかる電子カルテ選び

費用、安全性、サポートは…?ゼロからわかる電子カルテ選び

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画像素材:PIXTA

新規開業・医院継承のタイミングで電子カルテの導入を検討している、そろそろ紙カルテからの移行を考えているけれど、どの電子カルテを選んだらいいのかよくわからない…そんな悩みをお持ちの医師の皆さまへ。ここでは、各社の電子カルテ事情に精通し、数多くの開業をサポートしてきたm3.com開業・経営コンサルタントに取材を実施。【初心者にもわかりやすく】をテーマに、コストや安全性、サポート体制などあらゆる角度から、電子カルテを選ぶべきポイントをご紹介します。

教えてくれた方

m3.com開業・経営コンサルタント
近藤 雄資さん、行武 李紗さん

新規開業の大半が電子カルテを導入、紙カルテからの移行も

現在、クリニックの電子カルテはどの程度普及しているのでしょうか?

行武さん
厚生労働省の調査※によると、平成29年には一般診療所の41.6%が電子カルテを導入しています。平成20年には14.7%ですから、この10年で大きく導入が進んでいることがお分かりいただけるのではないでしょうか。新規開業の場合は大半が電子カルテを導入されますし、既存の医院でも煩雑な作業を簡略化したいなどの要望から、継承等のタイミングで電子カルテに変更したいというお問い合わせが増えています。
厚生労働省医療施設調査

電子カルテにも様々な種類がありますが、選定のポイントについて教えてください。

近藤さん
まず、電子カルテには、大きく分けて「院内サーバー型(オンプレミス型)」と「クラウド型」があります。大まかに言うと、院内サーバー型は院内で電子カルテ情報を管理する方法、クラウド型はインターネット上で管理する方法です。

手厚いサポート体制と、ニーズに合わせたカスタマイズ「院内サーバー型」

近藤さん
院内サーバー型は電子カルテとしての歴史も古く、多くの大学病院や市中病院で採用されています。勤務医の先生方も馴染みがあるのではないでしょうか。製品としては、無床診療所向け電子カルテシェアNo.1のPHC社※(Medicom-HRV)や、富士通社(HOPE LifeMark-SX)、キヤノンメディカルシステムズ社(TOSMEC Aventy3.0)など大手メーカーのほかに、新たな企業も参入してきています。
※旧パナソニック ヘルスケアホールディングス株式会社

院内サーバー型の大手メーカーの場合、多数の代理店があります。そのため、困った際に、電子カルテ導入時の操作研修や、開業時の立ち合い、レセプトオンライン請求の補助など、対面でのサポートが受けられるのが大きなメリットです。パソコンが苦手な先生やスタッフさんでも安心して導入できるのではないでしょうか。電子カルテの機能も充実しており、先生や医院のニーズに合わせてカスタマイズができるのも魅力です。

ただし、購入費用と月額費用に加え、パソコンの耐用年数の関係で5年毎の買い替えが必要になるなど、クラウド型と比べると費用がかかります。そのため、検討される際には購入費用だけでなく先々のことも含め、ご検討いただくと良いと思います。

低コストで運用可能、セキュリティ・リスク管理の面でも注目「クラウド型」

近藤さん
費用面の観点から、近年人気が急上昇しているのがクラウド型です。クラウド型電子カルテは、先生方にパソコンをご用意いただき、インターネットのブラウザを利用して電子カルテを使用します。パソコンの耐用年数問題についても、ご自身でリーズナブルなものを探して買い替えていただけばOKですから、初期費用・買い替えコストともに院内サーバー型よりも抑えられます。サポートについては、メールや電話、チャット機能などがメインですが、そのぶん月額費用は院内サーバー型よりも抑えられます。クリニックのサイクルを20年と考えた場合、月額費用と買い替え費用の累計で院内サーバー型よりも1000万円以上費用を抑えられるという試算もあります。

対面でのサポートを受けられないのは、パソコン初心者には不安では?

行武さん
そうした声にこたえるため、院内サーバー型と同様に対面でのサポートプランを用意しているメーカーもあります。たとえばエムスリーデジカル社(M3 DigiKar)では、院内サーバー型と同様に、電子カルテのセッティングから操作方法研修、また開院後の対面サポートが可能なプレミアムプランも用意しています。

なるほど。電子カルテの情報はインターネット上のサーバーで管理するとのことですが、情報流出などセキュリティ面はいかがでしょう?

近藤さん
クラウド型電子カルテが使用しているクラウドは、アクセス回線もネットバンキングと同様に高いセキュリティレベルで管理されていますので、情報管理に関しては安心いただいて大丈夫です

行武さん
安心という意味では、データバックアップの問題もあります。たとえば院内サーバー型の場合、災害など何らかの理由でサーバーが被害を受けた場合、復旧が難しいというデメリットがあります。もちろん外部サーバーに保管できるプランもありますが、オプションで別途依頼をする必要があります。一方クラウド型の場合、サーバーは日本国内でも数か所に分かれているためどこかの地域で大災害が起こっても、別のサーバーからデータを取得することができるので、電子カルテのデータが消失することはまずありません。

デメリットについてはいかがでしょうか?

近藤さん
基本的な機能は備えていますが、カスタマイズ性においては院内サーバー型の方が、可能なことが多いです。そのため、レイアウトなどを自分好みに細かく設定したい…という先生には向かないかもしれません。先生の利便性に対する要望を10点満点としたときに、院内サーバー型は8~9点、クラウド型は7~8点と言えるかと思います。

行武さん
院内サーバー型もクラウド型もそれぞれ一長一短があります。そのため、電子カルテを選定する際には、サポート体制や利便性、情報管理・セキュリティ面と、費用の兼ね合いをお考えいただき、選定をされると良いと思います。

増加する電子カルテメーカー、存続性も考慮して検討を

そのほか気にすべきポイントはありますか?

近藤さん
これは院内サーバー型、クラウド型に関わらずですが、電子カルテ領域に参入するメーカーは近年増加傾向にあります。

「新興メーカーだから悪い」「老舗メーカーだから良い」ということではありませんが、導入後に会社の存続が難しくなってサポートが終了してしまったり、サーバーが使用できなくなってしまったり…というトラブルは避けるべきかと思います。

開業をされると長期間クリニック経営を続けていかれると思いますので、電子カルテを長く使用していくにあたり、その会社の存続性はどうか?という視点ももって検討いただくと良いのではないでしょうか?


電子カルテ選びの入門編として「院内サーバー型」と「クラウド型」について詳しく説明いただきました。次回は、院内サーバー型、クラウド型それぞれについて代表的な電子カルテを解説するとともに、先生のタイプ別におすすめの機種をご紹介します。