医療法人は売却できる?出資持分ありとなしの場合の譲渡スキームやしくみを徹底解説
近年、高齢化や後継者不在といった社会背景から、クリニックを閉院ではなく「売却」という形で事業承継を行う医師が増えています。特に「医療法人」として経営している場合、その売却方法や手続きは複雑で、個人開業医の事業譲渡とは大きく異なります。
本記事では、「医療法人は売却できるのか?」という疑問に答えながら、医療法人の設立時期によって異なる「出資持分あり」と「出資持分なし」の2つのケースにおける売却のしくみや具体的な手続きを、専門家の視点からわかりやすく解説します。
1. なぜ今、医療法人の売却(第三者継承)が注目されているのか?
日本の診療所の約半数以上が院長が60歳以上であり、そのうちの約7割が後継者不在という深刻な状況です。多くの医師が、長年築き上げてきたクリニックの将来について不安を抱えています。
閉院という選択肢の厳しさ
閉院には多くの労力とコストがかかります。建物の解体費用や原状回復費用、医療機器の廃棄費用、従業員への退職金など、合計で1,000万円以上の出費になるケースも少なくありません。
さらに、長年通ってくれた患者さんは転院先を探さなければならず、慣れ親しんだスタッフも職を失うことになります。これは、地域医療にとって大きな損失と言えるでしょう。
売却という新たな選択肢の登場
一方、医療法人の売却(第三者継承)は、これらの問題を一挙に解決する有効な手段です。
- 経済的メリット:閉院費用が不要になるだけでなく、法人の純資産に加えて、長年の努力で培った「営業権」(のれん代)が加算された譲渡価格を得ることができます。
- 手続きの負担軽減:複雑な閉院手続きの多くが不要になり、専門家のサポートを受けることで、先生ご自身の負担を大きく軽減できます。
- 社会貢献:医院が存続するため、患者さんやスタッフ、そして地域医療を守ることができます。
このような理由から、医療法人の売却は、先生自身の老後資金確保と、社会的な貢献を両立できる最適なリタイアプランとして、今、最も注目されているのです。
2. 医療法人売却の基礎知識:個人開業医との違い
医療法人の売却を考える上で、まず理解しておくべきは、個人事業としての医院売却(事業譲渡)との違いです。
個人開業医の「事業譲渡」
個人開業医の場合、院長が医院の資産(土地、建物、医療機器、借地権など)と営業権を譲受側に売却する「事業譲渡」という形式をとります。この場合、法人格そのものは存在しないため、契約は譲渡側・譲受側の個人間で行われます。(譲受側は医療法人等になることもあります。)
医療法人の「事業承継」
医療法人の場合、事業譲渡はまれで、一般的には法人格そのものを承継することになります。この承継方法が、法人の設立時期によって大きく2つに分かれます。それが、「持分あり医療法人」と「持分なし医療法人」です。
3. 出資持分あり医療法人の売却(持分譲渡)のしくみ
持分あり医療法人とは?
「出資持分」とは、医療法人の設立にあたり出資した社員(医師)が、その出資額に応じて法人の解散時に財産分配を請求できる権利のことです。
平成19年(2007年)の医療法改正以前に設立された医療法人は、原則としてこの「出資持分」が認められていました。
売却スキーム:持分譲渡
持分あり医療法人の売却は、「持分譲渡」という方法で行われます。これは、医療法人の社員が保有する出資持分を、譲受側(後継者)に譲渡するしくみです。
このとき、譲渡価格は単に設立時の出資額で決まるわけではありません。以下の要素が加味されて算出されます。
譲渡価格 = 法人の純資産 + 営業権
純資産とは、法人が保有する資産の合計から負債を差し引いた金額です。そして、「営業権」とは、一般企業における「のれん代」に相当するもので、法人が生み出す超過収益力(ブランド力、立地、患者数、収益性など)を金額に換算したものです。
つまり、持分譲渡は、法人の純資産と、これまで培ってきた無形の価値(営業権)を後継者に引き継ぐ対価として、譲渡側が利益を得るプロセスと言えます。
- 譲渡側は収益性等に応じた売却益を得られる可能性がある。
- 事業譲渡と比較して、手続きが簡素化されることが多い。
<持分あり医療法人売却のメリット>
- 譲渡価格の算定が専門的で複雑。
- 税務上の取り扱い(法人税、所得税、贈与税など)に注意が必要。
<注意点>
4. 出資持分なし医療法人の売却(基金譲渡)のしくみ
持分なし医療法人とは?
平成19年(2007年)の医療法改正以降に設立された医療法人は、「出資持分」の概念が廃止されました。これらの法人は、解散しても出資者への財産分配が認められません。代わりに「基金」というしくみが採用されています。
「基金」は、法人の設立や運営に必要な資金を、社員などから募るもので、あくまで法人の「財産」として扱われ、出資持分のような財産権は発生しません。
売却スキーム:基金返還請求権譲渡
持分なし医療法人の売却は、「基金返還請求権譲渡」という方法で行われます。
この場合、譲渡側は「基金」を譲受側に引き継ぎます。ただし、基金はあくまで法人の財産であるため、譲渡側が直接的な対価として基金の払い戻しを受けることはできません。その代わり、持分あり医療法人と同様に、法人の純資産と営業権を評価した上で、その対価として「退職慰労金」を算定し、後継者から譲渡対価を受け取ります。
譲渡対価 = 法人の純資産+ 営業権
基金譲渡は、法人の純資産と営業権を後継者が取得する対価として、譲渡側が相当の金額を退職金として受け取るしくみです。この方法であれば、出資持分がなくても、実質的な対価を得て事業を譲渡することが可能です。
- 税制上のメリットを享受しやすい場合がある。
- 承継後の後継者側の経営が安定しやすい。
<持分なし医療法人売却のメリット>
- 持分ありの場合と比べて、手続きがより複雑になる場合がある。
- 専門的な知識を持つコンサルタントのサポートが不可欠。
<注意点>
5. 医療法人売却の具体的なプロセスと必要書類
医療法人の売却は、以下の流れで進めることが一般的です。
- ご相談・簡易査定:まずは専門のコンサルタントに相談し、医院の現状や希望条件を伝え、簡易的な売却価格の算定を行います。
- 仲介契約の締結:専門会社との間で、仲介業務に関する契約を締結します。
- 詳細評価・案件登録:詳細な財務状況や法務リスクなどを評価し、譲渡案件として登録します。
- 後継者探索:匿名情報(ノンネーム)で後継者候補を広く募集します。
- 面談・院内見学:候補者と面談し、お互いの条件や経営方針を確認します。
- 基本合意書の締結:譲渡価格や譲渡時期など、主要な条件について合意し、基本合意書を締結します。
- 買収監査(デューデリジェンス):譲受側が、法人の財務・法務状況を詳細に監査します。
- 最終契約の締結:監査結果を踏まえ、最終的な譲渡契約を締結します。
- 譲渡実行:行政への各種届出などを行い、譲渡を完了させます。
- 定款
- 過去3〜5年分の決算書・事業報告書
- 役員・社員名簿
- 法人登記簿
- 医療機器のリスト
- 患者数データ
- スタッフの雇用契約書
主な必要書類(例)
6. 失敗しない医療法人売却のための3つのポイント
1. 余裕をもった計画を立てる
理想のタイミングでリタイアするには、譲渡完了までに2〜3年かかることも想定し、早めの準備が不可欠です。突然の病気や体力的な限界を迎えてからでは、焦りから不利な条件で譲渡をせざるを得ない状況に陥る可能性があります。
2. 信頼できる専門家をパートナーにする
医療法人の売却は、専門的な知識と豊富なネットワークがなければ成功は難しいものです。特に以下の3つの要素を満たす専門家を選びましょう。
- 豊富な実績とノウハウ:持分譲渡・基金譲渡双方の実績が豊富であること。
- 強固なネットワーク:多様な後継者候補と繋がりがあること。
- 徹底した秘密保持体制:譲渡検討中の情報が外部に漏洩しない体制があること。
3. 複数の後継者候補と面談する
一人の候補者とだけ交渉を進めるのはリスクが高いです。複数の候補者と面談し、譲渡価格だけでなく、先生の思い描く「理想の医療」を引き継いでくれる最適なパートナーを見つけることが、成功への鍵となります。複数の候補者がいることで、交渉を有利に進められる可能性も高まります。
7. エムスリーが選ばれる理由と実績
エムスリーは、これらのポイントをすべて満たした医院継承支援サービスを提供しています。
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- 高額譲渡の実績:多くの候補者に情報を届けることで競争原理が働き、他社と比較して高額な評価額(譲渡価格)を実現できた事例があります。
- 一貫したサポート:専任のコンサルタントが、相談から最終契約、行政手続きまで、譲渡の全プロセスを一貫してサポートします。
- 徹底した秘密厳守:厳重な秘密保持体制を確保しており、先生の許可なく情報が外部に漏れることはありません。
具体的な検討はまだという先生も、まずはご相談ください。無料の個別相談会や簡易査定も承っています。



