Vol.4 何が違う?継承で患者が逃げる医院、増える医院
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厚生労働省の調査(※1)によると、2018年の全国診療所数(民間経営)は約9万件、また60歳以上の開業医の割合は約半数にのぼると報告されています。人生100年時代、生涯現役を貫こうという高い志をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、医師であっても老いは平等に訪れます。やがて訪れる“いざというとき”のために考えておきたい引き際について、多くのクリニック継承(譲渡)を手掛けてきた医院継承コンサルタントの村田耕平氏に聞く本連載。今回は過去の具体的な事例(※2)を交えながら、クリニック継承(譲渡)で気を付けたい引継ぎのポイントについて紹介します。
※1厚生労働省「平成28年医療施設(動態)調査」「平成28年医師・歯科医師・薬剤師調査」
※2個人情報に配慮し、医院や医師が特定できないよう、複数の事例や一部フィクションを交えて紹介しております
嘘も方便、引継ぎでは患者を安心させる理由付けを
クリニック継承(譲渡)では引継ぎが重要というお話(Vol.3)をお聞かせいただきました。
はい。1~2か月の十分な時間をとって、旧院長から新院長へお一人お一人の患者さんを引き継ぐことが重要というのは既にお話した通りです。これに加えて、とくに第三者への引継ぎでは、患者さんに継続的に通っていただくためにちょっとしたコツがあります。
そのコツとは?
なぜこの医師を後継者に選んだのか、患者さんに理由をしっかりお話しすることです。親子間での継承の場合、院長の代替わりに違和感を覚える患者さんはほとんどいないでしょう。しかし、第三者への継承の場合「この医師はどこの誰なのか、いったいなぜこの人が後継者になるのか」という部分をしっかりお話して、患者さんを安心させてあげることが大切です。
実際は、コンサルを通じて募集した赤の他人であったとしても「同じ大学の後輩で旧知の仲なんですよ」「同じ学会に所属していて昔から親しくしているんですよ」などと紹介してあげると、患者さんも安心して継続通院して下さる傾向が高いようです。こればかりは嘘も方便です。
前回もお話したように、引継ぎがうまくいって、新院長の専門性で+αの魅力(検査や在宅医療など)が加われば患者さんの増加にもつながります。
なるほど。反対に継承がきっかけで患者さんが逃げてしまった、というような話も聞きますが、何が違うのでしょう。
引継ぎの重要性は軽視できませんが、人柄による部分が大きいのではないでしょうか。やはり、大学病院とクリニックでは診療内容や患者さんの求めることは異なりますし、スタッフとのコミュニケーションのあり方も違います。そのギャップを柔軟に埋めていける方ならいいですが、そうでない方では難しいかもしれないですね。
また、開業医、とくに内科を標榜している場合や地方の場合はジェネラリストが求められますから、あまりにも専門性を強調しすぎる先生は、敬遠される傾向があるかもしれません。さらに患者の身体に一切触れない、聴診器もあてないといった診察を行うと前院長とのギャップを感じる方も多そうです。そのあたりの特性も含めて、後継者の決定や引き継ぎをされるとよいでしょう。
考えておきたい、継承後の関わり方
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クリニック継承(譲渡)後に旧院長がどう関わるか、についてはいかがでしょうか?
売主と買主、双方にとって納得のいく形を面談で決めていただいています。
今回の事例(70代後半・埼玉県の内科クリニック・子に継承を断られ第三者継承を決意。詳細はVol.3にて)では週に1回、旧院長にも診療を継続していただくことになりました。
新院長と一緒に診療されるなかで、長年の経験からアドバイスをすることも多い一方、最新の知見や検査手法などは新院長のほうが詳しく、活気が出るクリニックを見て「しかるべきタイミングで引き継ぐことができたな」と、実感されることも多いようです。
また、これまで夫婦二人三脚で朝から晩まで身を粉にして働かれてきたわけですが、週1回の診療となったことで、奥様と小旅行に出かけたり、お子様とゆっくりお食事を楽しんだりと、私生活を充実させられるようになったのだとか。なんならもう10年早く譲渡すればよかった、というような声もいただきました。
人生100年時代、定年退職という概念のない開業医だからこそ、しかるべきタイミングで後進に託す決断をすることが、医院にとっても、院長先生やご家族にとっても、肝要であることが分かります。どうもありがとうございました。
医院継承の専門家にご相談ください
(エムスリー株式会社 医院継承支援サービス)
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【プロフィール】
村田 耕平氏 エムスリー株式会社 医院継承チームリーダー
ヘルスケア専門のコンサルティング会社にて、医療機関の運営・再生支援、自治体の医療計画策定支援、事業会社の戦略策定支援等に従事。その後、エムスリー株式会社にて医院の第三者継承支援に携わる。