事例で分かる! 円満な継承開業を実現するポイント
不動産購入の手続きは「事業譲渡」か「出資持分(基金)譲渡」で変わる
まず、一般的な継承開業のフローは、以下のようになっています。
不動産を買う場合、基本的には売主が不動産を所有していることがほとんどです。基本合意や最終契約のタイミングで額面などを話し合う必要があります。
次に、不動産購入の手続きについてです。不動産購入には、主に「事業譲渡」と「出資持分(基金)譲渡」の2つのパターンがあります。
■事業譲渡
売主や売主の親族が個人で不動産を所有している場合です。不動産の所有者を現所有者から買い手に変更する必要があるため、不動産売買に関わる契約書と法務局への変更登記の手続きが必要となります。
不動産売買の締結方法には、最終契約書に不動産を譲渡対象資産として記載することで、不動産売買契約の役割を果たさせる場合もありますし、別途売買契約書を作成する場合もあります。
変更登記はご自身で行うこともできますが、煩雑な手続きになるため、司法書士に依頼する方がほとんどです。不動産売買の契約書作成も引き受けてくれる司法書士も多いので、必要であれば追加で依頼しましょう。
■出資持分(基金)譲渡
不動産が含まれている医療法人ごと引き継ぐ場合になります。
法人保有の不動産に関しては、そのまま引き継ぐことになるので、改めて契約書関連を作成する必要はありません。引き継ぐ不動産の状態は、トップ面談や買収監査時などにチェックする必要があります。不動産価格の交渉はできるので、金額を変更する場合は法人保有の不動産の評価替えを行うなどの手続きをしましょう。
不動産の価格はどう決定する?
次に、不動産売買価格の考え方についてです。
価格を決定する際に重要なのは、「売主と買主双方が合意するかどうか」という点です。そのため、万が一客観的な数値があったとしても、必ずしもその数値を基準に交渉ができるとは言い切れません。そう理解していただいたうえで、不動産売買価格の主な考え方について3つご紹介します。
■パターン1
固定資産税評価額から算出する方法です。固定資産税評価証明書に記載がある評価額を0.7で割り戻して、およその市場価格を出すことができます。ざっくりとした金額にはなりますが、比較的簡単に土地の価格目安を出すことができます。ただし、建物の固定資産税評価額は再建築価格と呼ばれ、新しく建て直す際の費用が基準となっているため、高い金額が出てしまいがちなところに注意が必要です。
■パターン2
不動産鑑定士に依頼をする方法です。売主側で不動産の提示額を算定するために依頼をしたり、買い手側が客観的な材料を取得するために買収監査で不動産鑑定士に依頼をしたりするケースがあります。費用が2~30万円かかってしまうのと、鑑定を入れたからといって必ずしもその金額が絶対的なものになるわけではないため、その点は注意が必要です。あくまで双方の合意が重要であり、提示された金額はその中での判断基準のひとつとなります。
■パターン3
不動産会社に査定依頼をする方法です。無料で行ってもらえるケースが多いのですが、会社によって金額に幅があるため、あくまで参考値になってしまう点には注意が必要です。また、そのようなサービスを行っている背景として、不動産会社は仲介に入りたいと考えているため、営業をされる可能性は非常に高いです。売主と買主が価格の交渉をしている段階では、基本的に不動産会社を仲介に入れる必要はありません。
不動産売買にかかる主な初期費用とは
次に、不動産売買の主な初期費用についてです。
土地建物の金額やその時の税制によっても大きく変わってくるので、あくまで参考程度にはなりますが、5,000万円の不動産を例にした場合、不動産代金の他に登記費用と司法書士への報酬はかかってくると考えておきましょう。
上記の表には不動産仲介手数料も含まれていますが、先述の通り、必ずしも不動産の仲介を入れないといけないわけではないので、節約できるケースも多くあります。
売買契約書を別途作成する場合でも、司法書士に数万円で対応してもらえる場合が多いので、専門家もうまく活用しながら進めていきましょう。
譲渡後の不動産の修繕費用はどれくらいかかる?
最後に、譲渡後の不動産の修繕について説明をします。
どれくらいの修繕費用がかかるのか、「屋外・躯体部分」と「屋内部分」に分けてみてみましょう。
まずは、屋外・躯体部分で主に修繕が必要になる部分をピックアップしました。かかる金額は以下をご覧ください。
屋外・躯体部分に関しては、賃貸の場合だと貸主側の負担になるのが原則です。ただし賃貸借契約書に借主負担の記載がされている場合もあるので、確認が必要です。
外壁は、雨風や日光に晒されるため、変色やひび割れ、剥がれなどが発生します。外壁に劣化がみられる場合は、屋内の浸水などを防ぐためにも再塗装等を行うのが一般的となっています。
同じく屋根も外気の影響を強く受ける部分です。屋根の劣化を放置すると、雨漏りや隙間風が起きてしまったり、素材によっては屋根が剥がれ落ちてしまったりする場合もあります。
雨どいも似た部分にはなりますが、支障が出ると排水がうまくいかず、雨どいの流水音が大きくなったり壁が汚れてしまったりします。放置すると建物の劣化を早めてしまう原因になります。
ベランダやバルコニーも、雨や紫外線で劣化しやすい部分です。老朽化が進んだ場合はいっそベランダごと取り替える方が費用がかからないケースもあります。
次に、屋内部分で主に修繕が必要になる部分です。賃貸の場合、屋内部分は借主負担となるのが原則です。
内壁は、場所などによっても経年劣化の度合いが変わってくるため、交換時期は一概には言えません。ただし洗面所やトイレなど水が飛び散る場所では、壁紙の劣化スピードも早くなってしまいます。継承案件の場合、かなり長い間壁紙を替えていないクリニックもあったりします。壁紙を張り替えるだけでも印象は大きく変わるため、一見して古いと感じても、少しお金をかけるだけで解決できるケースが多いポイントとなります。また、壁紙を変える場合は大掛かりな工事になることが多いので、水回りのリフォームと合わせて行う場合も多くあります。
最後に、吸水管、洗面設備、トイレなど水回り全般は、使用頻度が高いだけではなく、とても汚れやすい箇所でもあります。タイミングをみてリフォームをしていくことが重要でしょう。
不動産の修繕費用の考え方で知っておくべきポイント
各部分についてかかる費用感についてご説明しましたが、総合すると、築30年で500万円前後の修繕費用をかけるのが一般的となっています。
引き継ぐ不動産の築年数や修繕状況を確認しながら積立を行うなど、事業計画を考えていく上でも重要なポイントとなります。
不動産の修繕費用の考え方について、例を用いてご説明します。
ケース①は、比較的綺麗な不動産の案件です。最短で約5年で完済が可能な物件です。実際に返済するとなると、修繕や医療機器の買い替えを念頭に置く必要があるので、返済可能額の一部を蓄えたりして、キャッシュフローに余裕を持ちながら返済をしていくのが良さそうです。
ケース②は、近いうちに修繕が必要な案件となります。最短返済年数は約4年で、非常に安価な案件と言えるでしょう。ただしすぐに修繕が必要となるため、それを考慮した借入が必要になるかもしれません。また、売主側に修繕の費用を負担してもらう形で減額交渉をしてみることも一つの選択肢となります。
今回は、継承案件における不動産売買の手続きとチェックポイント、そして譲渡後の不動産の修繕についてご説明しました。譲渡スキームに沿って、契約の継承手続きを適切に行うことが大切です。また、修繕を鑑みた事業計画を立てることをお勧めいたします。
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