事例で分かる! 円満な継承開業を実現するポイント
“実際に弊社で担当した継承事例”について対談形式でご紹介いたします!
売り手と買い手の間の異なる価格目線で生まれた溝
今回は、実際に担当した継承案件について、最終的には適切に対応を行い、無事譲渡に至っていますが、売り手の先生と買い手の先生の間での目線の違いや方針の違いにより、少し問題になった案件のご紹介をお願いします。
まず、譲渡金額が論点となったケースについてお話をさせていただきます。案件の概要から簡単にお話しさせていただくと、売り手の先生は関西地方で個人開設の眼科クリニックおよびコンタクトレンズの販売会社を経営されていました。そして最終的には関西地方の勤務医の先生に売却をされました。弊社では買い手の先生のアドバイザーとして支援をさせていただきました。
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中小規模のM&Aでは仲介という形が多いですが、今回買い手の先生は専任のアドバイザーという形をとられたんですね。
そうですね。M&Aのアドバイザーには大きく分けて、仲介とフィナンシャルアドバイザー、二つの形態があります。仲介は、売り手の先生と買い手の先生の間に立ち、両者に対して役務提供を行うのに対して、フィナンシャルアドバイザーは、売り手の先生か買い手の先生のどちらか一方だけに対し役務提供を行います。
仲介とフィナンシャルアドバイザーで、それぞれメリットやデメリットはあるのでしょうか。
仲介の場合は、両者の間に立って交渉をまとめていくため、フィナンシャルアドバイザーと比べると、比較的スムーズに交渉が進むことが多い印象です。ただし、利用者に対して役務提供していくため、クライアントの利益最大化の実現が難しいという点においてはデメリットだと言えるかもしれません。いわゆる利益相反と呼ばれるものですね。
一方で、フィナンシャルアドバイザーですと、クライアントの利益最大化をサポートすることが可能です。売り手の先生ならより高い金額での売却を、買い手の先生ならより低い金額での買収をサポートするイメージです。しかしながら、売り手の先生および買い手の先生それぞれにアドバイザーがつくため、ハードな交渉になることが多い印象です。
なるほど。では具体的に今回のケースのお話を伺いたいのですが、そもそもどういうところが問題というか、ネックとなったのでしょうか。
大きく分けて、譲渡代金と継承時期の二つが論点となりました。まず一つ目の譲渡代金についてですが、当初の売り手の先生の売却希望価格と買い手の先生の継承希望価格に大きな乖離があり、この溝をどう埋めるかに大変苦心いたしました。
先ほどお話した通り、売り手の先生としてはできるだけ高い金額で売却をしたいですし、買い手の先生としては、できるだけ低い金額で買収を成功させたいと考えます。その両者の思惑がこのようなレンジの乖離を生んでしまいます。
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我々のようなアドバイザーは、対象事業の収益性を元に売り手の先生に対して、まずは本源的な価値をレンジで示させていただき、そのレンジ内で候補者の探索を開始するというのが一般的な流れとなります。
もちろんレンジの上の方の金額で妥結することが好ましいですが、M&Aというのは相手があってのことですので、売り手の先生の希望価格帯と買い手の先生の希望価格帯の中で譲渡代金の交渉を実施していくことになります。
実際に譲渡されるクリニックの本当の価値と実際に当事者間で決められる価格は、また別の概念であることを理解しなければいけないんですね。ここの価格の考え方の違いは成約までまとめるのがとても難しいように感じるのですが、今回のケースではどのように進めていったのでしょうか。
結論からいうと、デューデリジェンスに締結した事項を整理して、それを根拠に売り手の先生に減額交渉を申し入れました。
デューデリジェンスとは具体的になんなのでしょうか。
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例えばこちらは譲渡実行までのスケジュールになります。売り手の先生と買い手の先生の間で基本合意書を締結した後に、買い手の先生に独占交渉権を付与して実施します。そして、この青く塗られている買収監査というところが、デューデリジェンスとなります。
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デューデリジェンスというのは、対象事業の価値やリスクを詳しく把握するために実施するものになります。一言にデューデリジェンスといっても、その中で色々な角度で分析を行います。例えば財務デューデリジェンス、法務デューデリジェンス、税務デューデリジェンスなど様々な分野があるため、案件固有の特徴によってどのような角度からデューデリジェンスを実行するのか決定することが重要になってきます。
減額交渉で大切なのはロジックを組んで説明をすること
今回デューデリジェンスのフェーズで何か気をつけたことはあるのでしょうか。
デューデリジェンスの結果を示した上で、このようなリスクがあり、このようなロジックで財務面にいくらくらいのインパクトがあるので、これぐらいの金額に減額していただきたい、という風に、減額の根拠と減額金額のロジックを丁寧に売り手の先生にお伝えしたというのが気をつけた点になります。
しっかりとロジックを組んで説明ができて、売り手の先生が納得しているということであれば、しっかりとお互いにフェアな交渉になったということですね。
そうですね。よくあるケースですが、買い手の先生が明確な根拠がない状態で売り手の先生に減額交渉してしまったことでお互いに不信感が生まれるということがあります。
価格の部分がデューデリジェンスの結果としっかりとした説明で両者納得のいく価額に落ち着いたというところですが、二つ目の譲渡の時期についてはどのようなことがあったのでしょうか。
状況から説明させていただくと、売り手の先生としては早く引退したいという意向がありましたが、買い手の先生からは売り手の先生からの十分な引き継ぎ期間が必要だという風に主張をされていました。最終的には、買い手の先生のご意向に合わせていただいた形になりました。継承の前に買い手の先生が週に1回非常勤勤務をして、その中で患者さんや従業員、あとは経営面など諸々の引き継ぎを密に行なっていただき、継承後の売り手の先生の負担を軽減するというところで妥結しました。
継承をしたあとの売り手の先生との関わり合いは色々と問題になるケースも多そうですね。
今回のように、売り手の先生が早く引退したいけど、買い手の先生はしっかりと一定期間引き継ぎをしてほしいというケースもあれば、逆に売り手の先生が何年かは診療に残りたいと思っていても、買い手の先生からもう継承しているのだから早期に完全引退してほしいというケースもあります。そこは色々と工夫をして、両者納得のいく形で継承の時期を決めていければなと思っていますし、今まで対応している案件においても相互の意見をしっかりと取り入れているので、特段これまで大きな問題が起きたということはありません。