
クリニック開業、まず何から?開院までのロードマップ
一般的にクリニックの開業にかかる期間は1年から1年半と言われています。この期間のうちに事業計画書の作成、開業資金の調達、開業地の選定、設計・内装工事、医療機器・電子カルテの選定、人材採用、行政への届出など多岐にわたる準備を進めなければならないこともあって、開業は一大プロジェクトといえるでしょう。今回は具体的な進め方の目安や着眼点について解説します。
開業準備の全体像を把握しよう
クリニックの開業は壮大なプロジェクト。開業候補地の選定は、事業計画やターゲットとする患者層の見込み数に影響し、資金調達もそれに基づくため、各要素が相互に関連しています。設計・内装工事や医療機器の選定といった物理的な準備に加え、広告計画や人材採用といったソフト面での準備も並行して進める必要があって、ご自身ひとりですべてをこなそうとするとかなりの労力が必要となってきます。まずは全体像をしっかりと把握し、「どんな用意をすべきなのか」を把握しておきましょう。
開業準備には、多くの要素を同時進行で進めなければならないため、全体のスケジュールを見える化した開業ロードマップを作成すると効果的です。このロードマップは、最初の開業決断日をスタート地点とし、ゴールからバックデートして必要な各ステップの完了時期を設定します。こうすることで、「いつまでに何を終わらせるべきか」が明確になり、各プロセスがスムーズに進行します。

この中で特にポイントとなる要素について以下に解説します。
(1)開業計画を立てる前に考えたい「コンセプト」(10か月前)
開業の準備を進める前に、まずはクリニックの**「コンセプト」を明確にすることが重要です。これは診療方針やクリニックの特色を定めるためのものであり、ターゲットとする患者層や地域のニーズに基づいて決めます。例えば、高齢化が進む地域では在宅医療や訪問診療**を提供するクリニックが必要とされていることが多く、このようなニーズに応えることができます。また、医療技術やサービスの特色を強調し、他の診療所との差別化を図ることで、経営の安定性が増します。
(2)事業計画作成のための情報収集(10か月以上前)
開業に向けての準備期間は長く、開業を検討し始めたらなるべく早く、セミナーへの参加をはじめ、事業計画作成にむけて情報収集をスタートしておくと安心です。事業計画書は、銀行からの融資を受ける際に必要なだけでなく、クリニック運営の指針となる重要な書類です。計画には、初期費用、運転資金、収支の予測、地域の競合分析、患者のターゲティングなど、詳細な情報を含めます。また、開業後の経営安定に向けた収支シミュレーションも必須です。
事業計画書を作成するには、まず診療圏調査を通じた市場分析が欠かせません。これには地域の人口動態、年齢分布、競合施設の有無、診療の需要などを含みます。これに基づき、クリニックの強みや差別化ポイントを明確にし、収支計画を具体的に立てていきます。また、資金調達方法も事業計画書に盛り込む必要があります。自治体による助成金や、他の金融機関からの融資も選択肢に含めると良いでしょう。
(3)土地・物件選定(10か月以上前)
クリニックの立地選びは成功の鍵です。ターゲットとする患者層がアクセスしやすい場所、競合の少ないエリアを選ぶことが重要です。Doctors LIFESTYLEの調査によると、「適切な立地の選定」に苦労したという声が28.1%と比較的多く、物件選びに多くの時間を割く必要があることがわかります。また、地方での開業を検討している場合、自治体の助成制度を活用できるかどうかも事前に確認しておきましょう。
(4)機器導入・システム選定(9か月前)
診療に必要な医療機器やシステムの選定も早めに進めておくべき項目です。特に、電子カルテや患者管理システムは診療の効率化に大きく寄与しますが、費用面や導入後のサポート体制も重要な検討要素です。クリニックの規模や診療科に合わせて、適切なシステムを選ぶことが必要です。スタッフが操作しやすいシステムを選定することで、運営もスムーズになります。
(5)スタッフ採用(5か月前)
開業前の準備段階で最も大きな課題となるのがスタッフ採用です。調査では、41.0%の医師が人材の確保に苦労したと答えており、また開業後も「スタッフの採用・マネジメント」が最大の悩みとして挙げられています。優秀な人材を見つけることが難しいだけでなく、面接で本質を見抜くのも困難であるため、働きやすい雇用環境の整備が求められます。採用後のマネジメントにも力を入れ、長期的にスタッフが働きやすい環境を作ることが重要です。
(6)集患・PR(5か月前)
開業後の集患活動も経営の成否に直結する要素です。特に、「集患対策」に苦労していると回答した医師は23.2%おり、開業前からどのように患者にクリニックを知ってもらうか、集患のためのPR戦略をしっかりと考えておく必要があります。具体的には、Webサイトの開設やSNSの活用、地域の広告媒体への掲載、近隣施設との連携が有効です。また、開業前からの事前予約の受け付けやキャンペーンを通じて認知度を高めることも効果的です。広報・PR活動自体は開院直前に行うにせよ、そこまでにロゴや広告、看板を作る場合は、5か月程度前から動いておくと安心です。
(7)公的申請(1か月前)
クリニックを開業するには、保健所や都道府県への届け出が必要です。これには事前に必要な書類の準備と提出スケジュールの設定が不可欠です。開業経験者からは「行政手続きが複雑で理解しにくい」という声も多く、行政の手続きをスムーズに進めるためには、できるだけ余裕を持って準備を進めることが肝要です。また、各地域の医療政策や診療報酬の変動に影響されるため、開業後も最新の情報をチェックしておく必要があります。
自身の状況や外部環境も考慮
このように、クリニック開業には多くの準備が必要ですが、「いつから開業医として働き始めるか」を考えるにあたっては、現在の在のご勤務先の退職タイミング、診療科の患者数の季節的動向、さらには家族の状況(子供の進学など)や自己資金の準備状況も考慮しなければなりません。
また、開業後の経営安定化のためには、初期の資金調達だけでなく、継続的な資金繰りや経営計画も重要です。医療機関の経営が透明化している現在、特に財務面での健全性が外部からも容易に評価されるため、事前にしっかりとした資金計画を立てておく必要があります。