
医院開業、医師会には加入すべき?加入のメリット・デメリット
クリニック開業を目前に控え、多くの先生方が直面する課題の一つが「医師会への加入」です。加入には様々なメリットがある一方で、少なくない費用や負担も伴います。開業準備で忙しい中、この重要な決断を下すために必要な情報を整理しました。本記事では、開業前の先生方が医師会加入を検討する上で特に知っておきたいポイントを、メリット・デメリットの両側面から解説します。
医師会とは?
医師会は、医師の職能団体であり、学術団体でもあります。主な目的は、医道の高揚、医学・医術の発展、公衆衛生の向上を通じて社会福祉に貢献すること。日本の医師会は大きく、以下の三層構造になっています。
- 日本医師会(日医):全国組織
- 都道府県医師会:各都道府県の組織
- 郡市区医師会:より地域に密着した組織
加入は任意ですが 、一般的に地域の郡市区医師会への加入が、都道府県医師会、そして日本医師会への加入の前提となります。つまり、日本医師会に加入する場合は通常、これら3つのレベルすべてに所属することになります。
開業医が注目すべき医師会加入のメリット
医師会に加入することによって開業医が得られるメリットは多数存在します。
1. 地域の健診・予防接種などの受託事業に参加できる
多くの郡市区医師会は、自治体から特定健診、がん検診、各種予防接種などの事業を受託しています。医師会会員になることで、これらの事業に参加する機会が得られます。これは、診療収入以外の安定した収入源となるだけでなく 、地域住民にクリニックを知ってもらう良い機会となり、集患や信頼獲得にも繋がる可能性があります。
2. 医師賠償責任保険(医賠責)に加入できる
万が一の医療事故に備える「日本医師会医師賠償責任保険制度」に加入できます。これは、医療行為によって生じた損害賠償請求(通常100万円超)に対応する保険で、紛争発生時には日本医師会、都道府県医師会、保険会社が連携して解決をサポートします。特に個人で開業する場合、リスク管理の重要な手段となります。若手会員には保険料の補助がある場合もあります。
3. 医師年金制度を利用できる
公的年金に上乗せする形で、老後の所得保障を目的とした私的年金制度に加入できます。特に厚生年金に加入していない個人事業主の開業医にとっては、重要な老後資金準備の選択肢となります。
4. 医師国民健康保険(医師国保)に加入できる可能性がある
一部の都道府県(例:東京都、福岡県)では、医師会員のみが加入できる医師国民健康保険組合が存在します。医師国保は所得にかかわらず保険料が一定のため、所得が高い場合には市区町村国保より保険料負担が軽減される可能性があります。ただし、扶養家族にも保険料がかかる、自家診療が保険適用外になるなどの注意点もあります。
5. 最新の医療・経営情報を入手しやすい
医師会を通じて、医療制度改正や診療報酬改定に関する情報、地域の医療連携に関する情報などが提供されることも。特に地域に特化した情報や、複雑な制度に関する解説は、多忙な開業医にとって価値があります。
6. 地域の医師とのネットワークを築ける
医師会が主催する会合や研修会などを通じて、地域の他の開業医や勤務医と交流し、情報交換を行うことができます。これは、患者紹介(病診連携)などの連携を円滑に進める上でも役立ちます。
開業前に考慮すべき医師会加入のデメリット・負担
メリットがある一方で、加入には以下のようなデメリットや負担も伴います。これらを理解しておくことが重要です。
1. 入会金・年会費
最大のハードルは費用負担です。日本医師会にまで加入する場合、通常3つのレベル(郡市区、都道府県、日医)それぞれに費用が発生します。
- 入会金(協力金等含む):
地域差が大きいですが、新規開業の場合、数十万円から数百万円に達することもあります。例えば大阪市北区や東京都北区の例では、合計で300万円近い初期費用がかかる可能性が指摘されています。 - 年会費:
日本医師会の年会費(例:開業医A①会員は年10万円 )に、都道府県・郡市区の会費が上乗せされます。総額は地域により大きく異なりますが、年間数十万円単位になることもあります。 - 会計処理:
入会金等は税務上「繰延資産」として扱われ、複数年で償却するのが一般的です。
開業当初の収入が不安定な時期に、この高額な初期費用は大きな負担となり得る点はまず、注意が必要でしょう。
2. 時間的拘束と業務負担の増加
会費だけでなく、時間的なコストも考慮する必要があります。
拘束時間は地域によっても様々ですが、医師会活動として会合への出席、委員会活動、休日・夜間診療の当番、学校医などの役割が求められることがあり、医院経営・プライベートに並行してこれらにどこまで対応するかは考えておいても良いかもしれません。これらの活動が診療時間外や、時には診療時間内に行われ、クリニックを休診せざるを得ない場合もあります。
加入手続きの概要
加入を希望する場合、通常は開業する地域の郡市区医師会にまず申請します。
- プロセス:
申込書提出後、理事会等で審査され、場合によっては面接があります。承認されれば、都道府県医師会、日本医師会への手続きが進められます。 - 必要書類:
入会申込書、履歴書、医師免許証写し、推薦状などが一般的ですが、地域により異なります。 - ローカルルール:
事前に地域の医師会役員への挨拶などが慣習となっている場合もあるため、確認が推奨されます。
開業前に実情を理解しておくことが大事
医師会への加入は、開業医にとって大きなメリットをもたらす可能性がある一方で、費用と時間的な負担も伴う重要な決断です。
地域ごとに雰囲気や条件も異なってくるところはあるので、加入を迷う場合はまず、開業予定地の郡市区医師会に直接問い合わせるのがおすすめです。ウェブサイトだけでは分からない、正確な入会金・年会費、具体的な義務(当番の頻度など)、地域の雰囲気などを確認しましょう。可能であればその地域で既に開業している先生から、医師会活動の実情について話を聞くのも有効です。