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今後の医院開業、リスクは?診療科目別「戦略」を考える

人生100年時代が到来しました。総務省によれば、日本の人口は2008年をピークに減少に転じ、2025年には1億2,000万人、2040年には約1億人まで減少すると推計されています。一方、平均寿命はというと、2022年には男性が81歳、女性が87歳を超え、過去最高を更新(厚生労働省『簡易生命表』)。このように人口減少と高齢化が同時進行する中で、医療を取り巻く外部環境は大きく変化しています。

人口構造と患者層の変化

少子高齢化が大きく進展し、日本人の年齢構成が変化したことによって、医療機関の受診動態も当然、大きく変わってきています。

一般診療所にかかる外来患者数は、2000年から徐々に増加し、2022年では約430万人に到達。そのうち65歳以上の割合は約55%に増えています。この増加の背景には、慢性的な疾患を持つ高齢者の存在があり、m3.comが過去に医師会員に行った意識調査においても「今後需要が増すと思う診療科目」として「一般内科」「精神科」「糖尿病代謝内科」といった各科の名前が。訪問診療を手掛けるかどうかも昨今では開業にあたっての大きな悩みの種になりつつあり、2022年の厚生労働省の調査では、訪問診療を行っている診療所は全国で15,000軒を超え、年々増加傾向にあります。特にこれから開業するクリニックの場合、これまでの伝統的なモデルにとらわれず、「変わりゆく日本の医療ニーズにどう応じていくか」が、求められています。

なお、m3.comが2022年に開業医に向けて「今後の想定リスクは何か」を聞いた結果は以下の通り。もっとも多かった回答は「収益の低下」で44.6%。2位以下に10%以上の差をつける形となりました。

開業医に聞いた「今後の想定リスク」についてのグラフ

私の地域では明らかに人口減少が進んでいます。団塊世代が減るにつれて患者数も減るのは、避けられない課題だと思っています。(呼吸器科系、40代)

人口減少が進んでいる地域です。団塊世代が減るにつれて患者も減ることはどの医療機関であっても避けられない道です。(消火器系)

新型コロナウイルス感染症が収まってもクリニック離れが患者の意識に芽生えてきていると思います。また、同じ診療科のクリニックが近辺に多すぎる。(小児科系、60代以上)

診療科目別の「戦略」を抑えた開業を

これからの開業を考える上で、競合する医師の年齢構成や、地域ごとの患者ニーズをしっかりと分析することが重要です。たとえば、都市部では40~50代の比較的若年層の医師が開業しているケースが増加している一方、地方では60代後半から70代の開業医が多くなっているというデータが示すように、地域によって医療提供体制の状況が異なります。これに基づいて開業エリアを選定することで、競争が激化する中でも安定した経営が可能となります。

また、高齢者の増加によって、慢性疾患の管理や訪問診療のニーズが高まっているため、これらのサービスを取り入れることが競争力の向上につながるでしょう。。これから開業する医師にとっては、こうしたトレンドをいかに取り入れるかが、地域での生き残りの鍵となるでしょう。

以下は、過去にm3.comが行った調査に基づく診療科目別の戦略のポイントとなっています。もちろん唯一解があるわけではありませんが、ご自身のポリシーや開業立地の受診動態、長期的なビジョンに応じて「開業戦略」を組み立てていくことが求められています。

内科開業の戦略

診療内容に応じて外来単価の変動幅が大きい。総合内科診療に限定すると「初診料(再診料)+検査料(血液検査、画像検査)」の組み合わせで外来単価は4,000円前後だが、糖尿病などの生活習慣病や呼吸器疾患などの専門性の高い診療を行うと特掲診療料が追加でき、外来単価アップが見込める。総合内科のみの診療内容で増収を目指すには、1日外来患者数を確保し、その中の初診の割合を高めていくことがポイント。社会的なニーズを踏まえ、外来診療だけでなく、在宅医療を組み合わせて実施すると収益性は高まりやすくなります。

整形外科開業の戦略

リハビリテーション患者がメイン層となりやすく、全患者に占めるリハ患者の割合が大きければ、外来単価も低まる傾向に。外来単価が高い医療機関では、MRIなどの検査やエコー下でのブロック注射、骨粗しょう症の検査などの検査、処置、小手術を行っていく。

小児科開業の戦略

保険診療とそれ以外(予防接種等)に分けて考える必要。外来単価が高くなっている医療機関には土日に診療を行い、ワクチン数を増やすことで外来単価は大幅に高めている例などが存在する。

消化器内科開業の戦略

内視鏡検査を多く実施している医院では高くなる傾向にあります。特に下部内視鏡検査は生検およびポリープ切除となるケースが目立ち、単価も高くなる傾向に。結果として、下部内視鏡検査を実施できる医師が在籍する医院の方が、外来単価は高まりやすくなる。

循環器内科開業の戦略

循環器内科に特化した診療の比重が大きくなると単価は上がる一方、医療機器の導入や看護師の確保が必要となるため、開業初期においてはどこまで設備を整えるのかは収支を確認しながら判断していくことがポイント

耳鼻咽喉頭頚部外科開業の戦略

補聴器適合検査や鼻・喉頭の内視鏡、アレルギーのレーザー治療などが多いと単価は高くなる傾向。花粉症やインフルエンザなどの繁忙期のみ診療時間を長くすれば、早朝・夜間・休日加算により患者単価がアップするケースも。

眼科開業の戦略

オペ有無で外来単価は大きく変化。オペなしの場合、コンタクトレンズ検査料などが重要となってくるが、患者は待ち時間等に敏感なため、予約システムをはじめとするIT導入なども視野に。オペがある場合、一診体制だと医師が手術のみを行うことは難しく、外来診療時間帯と手術の診療時間帯を分けるなど運用上の工夫も。患者は手術実績が多いクリニックを選ぶ傾向があるため、開業初期で実績が少ない場合は、勤務医時代の医師の実績が患者への信頼度になってくると言える。

参考資料