
クリニック開業の「工事検査」何を見るべき?
工事検査は、クリニックの設計や内装において安全性と機能性を確保するために不可欠です。適切な検査を実施することで、トラブルを未然に防ぎ、患者さんが安心して診療を受けられる環境を整えることが可能です。一方で「工事検査」に関して開業医の視点から何を意識したらよいか、ピンと来ない方も多いのではないでしょうか。今回はそんな工事検査について、そもそもの目的や着眼点について解説します。
クリニック開業で必要な工事検査とは
工事検査が必要な理由と目的
工事検査の目的は、患者さんとスタッフの安全を守り、適切な医療行為を行うための最良の環境を整えることです。建築基準法や医療法などの法的な基準を満たしているか、設計図通りに施工が行われているか、使用する材料や設備が適正であるかを詳細に確認します。
多くの工事業者が関与し、指示が複数の段階を経て行われるため、意図が正確に現場まで伝わっていないこともあります。さらに、知識やスキルが不十分な職人による不適切な施工が行われる可能性もあるため、工事検査を通じて、こうした齟齬がないか確認することが重要です。
工事検査を怠った場合のリスクと影響
工事検査を怠ると、施工ミスや手抜き工事が発見されず、その結果として建物に欠陥が生じる可能性があります。例えば、コンクリート打設前に鉄筋の設置が正しく行われていなかったり、換気設備の配管に問題があったりすると、建物全体の構造が弱くなり、耐久性に悪影響を及ぼすことになります。これにより、建物自体の寿命が短くなる恐れがあります。
さらに、工事後に発見される欠陥の修正は多大な費用を伴い、クリニックの運営にも影響を及ぼします。工期の遅延や予期しない修繕費用が発生することを避けるためにも、工事検査は欠かせません。
工事検査で確認する項目は?
工事検査では、さまざまな項目を確認します。例えば、杭工事の場合、最初の杭を打設する際に、地盤や土壌のサンプルが事前の地盤調査と一致しているかどうかを確認します。
この段階で不一致があれば補正を検討し、必要な調整を行います。また、コンクリート打設前に鉄筋が設計通りに配置されているか、使用するコンクリートの水分量が適切かなど、細かな点をしっかり確認します。これらの確認が完了してから、外部仕上げ工事や換気設備のダクト工事を進めていきます。具体的には、コンクリートに配管のための穴を開ける補強工事が適切に行われているかも確認の一環です。
コンクリートなどの主要構造が完成した後は、内装工事に入る前に「墨出し作業」を行います。これは、設計図を基に床に実寸の線を引き、受付や診察室、衛生設備などの位置を確認する作業です。
テナント開業の物件では、築年数が古いために既存の図面と現状がズレていることがあり、特に部屋に奥行きがある物件では大きな調整が必要になる場合があります。こうしたズレを考慮し、建築士が全体のバランスを保ちながら調整を行います。
院長がすべきこと
内装工事に取り掛かる前の検査時:現場を直接確認する
内装工事に取り掛かる前には、院長自身が現場を確認することが非常に重要です。鉄筋やコンクリートの状態は専門知識が必要なため、ドクターにとっては理解しづらい部分もあるかもしれませんが、広さや間取りの確認は現場で行うことが必要です。これにより、設計段階でのイメージとの違いに気付き、修正が必要かどうかの判断ができます。また、設計者と現地で打ち合わせを行い、最終的な調整をすることも欠かせません。
工事が完了した後にも、最終的な検査を行います。この段階では、以下のポイントに注意して確認しましょう。
- 壁や床に傷や汚れ、凹凸がないか
- ドアや窓がスムーズに開閉するか
- 照明や電気設備が正常に動作するか
- 給排水設備に漏れや詰まりがないか
- 換気ダクトや配線が適切に設置されているか
こうした点を見逃すと、後々修繕が必要になり、多大な費用がかかる可能性があります。施工不良が発見された場合は、引き渡し前に修正を依頼することが不可欠です。
工事完成後の検査時:施工不良がないか確認する
工事完成後の検査は、クリニックの運営開始前の最後の確認機会です。この段階では、以下のような点に注意して確認を行いましょう。
- 壁や床にはキズや汚れ、不自然な凹凸がないか
- ドアや窓はスムーズに開閉するか、隙間はないか
- 照明や電気設備は、正常に機能するか
- 給排水設備は、水漏れや排水の詰まりがないか
- 基礎打ちや壁の下地、換気ダクト、配線などが適切に施工されているか
工事完成後の検査を怠ると、後で修理が困難になります。仮に施工不良が発見された場合には、工事完成後の引き渡し前に必ず修正を依頼する必要があります。
使用開始後に不具合が見つかったら
クリニックの使用を開始してから不具合が発見されることもあります。このような場合、以下のステップで対応しましょう。
- 不具合の記録:発見した不具合を詳細に記録し、可能であれば写真を撮影
- 建設会社への連絡:施工を担当した建設会社にすぐに連絡し、状況を説明
- アフターサービスの確認:契約時に定められたアフターサービスの内容を確認し、対応可能か確認
- 修理の手配:建設会社と相談の上、修理のスケジュール立て
特に注意が必要なのは、構造に関わる重大な不具合や、患者の安全に直結する問題です。これらは最優先で対応する必要があります。また、軽微な不具合でも放置せず、早めに対応することで、大きな問題に発展するのを防ぐことができます。
検査は誰に頼むのがよいか
最近では、住宅分野でも導入されているインスペクター制度を利用することも選択肢の一つです。「インスペクター」は設計者でも施工者でもない第三者の立場で工事をチェックする建築士などの専門家のことで、インスペクターに確認をしてもらうことで、より客観的で信頼性の高い検査が可能です。工事の品質を確保し、クリニックの開業後にトラブルが起こらないようにするために、このような制度の利用を検討するのも良いでしょう。