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要注意!クリニック開業に関わる建物や内装の法律や制限を解説

クリニックの設計・建築においては、単に医療施設としての機能を備えるだけでなく、建物としての法的な要件を満たしておくことが極めて重要です。各種法規制は、建物の安全性や利用者の利便性、さらには地域社会との調和を図る上でも重要な要件といえ、建築士にお任せすることもできるものの、リスク管理の一環として理解しておくことをお勧めします。
本記事では、クリニックの建築および運営に関連する主要な法律と、その適用方法について解説します。

建物や内装を決める際に留意すべき法律

クリニックの建築や内装に際しては、複数の法的要件を考慮する必要があります。今回はその中でも特に留意すべき5つの関連法律について重点的に解説いたします。

  • 建築基準法
  • 消防法
  • 都市計画法
  • ハートビル法
  • 自治体の条例

(1)建築基準法

建築基準法は、土地および建物に対して建築の制限を設ける法律です。土地を購入してクリニックを建設する場合はもちろん、テナントクリニックの場合でも建築基準法の要件は満たしておかなければいけません。

建築基準法の詳細な要件を院長が全て理解する必要はありませんが、建築士に一任することには一定のリスクが伴います。建築士や工務店が診療所の建築基準に関する理解が不足していると、建築後に違法であることが判明するケースもあり得るためです。問題や事件が起きて行政の立入検査が入り、その時初めて違法であったと知るようなことは避けたいところといえます。

建築の各段階において、建築士や工務店に対し建築基準法の適合性を慎重に確認しながら進めていくことが重要です。

(2)消防法

消防法は、主に火災発生時の避難経路確保に関する規定を設けた法律です。これらの規定は、病床の有無、診療科目、クリニックの規模などに応じて異なります。

テナント型クリニックの場合、ビル全体のテナントの構成や収容人数に基づいて防火管理者の配置や防火計画の提出が求められることがあります。そのためビル管理会社との連携を図りながら、必要な要件を適切に満たしていくことが重要です。

(3)都市計画法

都市計画法は、日本国内の都市の発展を秩序ある形で進めるために規制や制限を設けた法律です。クリニックを建築して開業する計画を持つ医師にとって、都市計画法は、建物がその土地に建設可能か、また希望する建物が適切に建てられるかに深く関係します。

都市計画法の最も大きな区分として、市街化区域と市街化調整区域があります。市街化区域は国が指定した市街地であり、その中で建築が推奨される区域です。一方、市街化調整区域は市街地の拡大を抑制するための区域であり、農業や林業など地域の保全を目的としています。このため、市街化調整区域では建築の規制が厳しく、クリニックの建設も例外ではありません。

また、建築に際しては建ぺい率と容積率も重要なポイントとなります。建ぺい率とは、土地面積に対する建築面積の割合を指し、容積率は土地面積に対する延床面積の割合を定めたものです。土地購入の際には、土地の広さだけでなく、これらの規制に基づき、実際に建築可能な建物の大きさや階数を検討することが重要です。

(4)ハートビル法

ハートビル法(正式名称:高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築促進に関する法律)は、高齢者や身体障害者等の自立と社会参加を促進することを目的とし、病院や診療所、劇場、集会場などの特定建築物に対して整備基準の促進を求めています。

具体的な要件の例を上げると、最低限、車椅子と人がすれ違える廊下の幅を確保することが求められ、望ましい条件としては、車椅子同士がすれ違える廊下の幅の確保も挙げられます。クリニックを建築する際、あるいはテナントクリニックとして内装を整える際にも、この法律に基づいた内装が適切に実施されているかを確認することが重要です。

(5)自治体の条例

クリニックを開業する際には、自治体ごとの建築関係条例やまちづくり条例を事前に確認することが不可欠です。例えば、前述のハートビル法は通常、延べ面積が2,000平方メートル以上の大規模建築物に適用される法律ですが、自治体によっては適用条件が異なることがあります。

東京都においては、クリニックの延べ面積が500平方メートル以上の場合、すべての建物にバリアフリー条例が適用されることが義務付けられています。このような場合、まちづくり条例の規制がハートビル法よりも厳しいことがあり、その規定に従う必要があります。

したがって、地域独自の条例を詳細に把握し、これらの規制に適合するよう進めることが求められます。

敷地に対する法的な制限の上で適切に建物を配置する

敷地の形状や接道する道路の方向などにより、法的な制限が建物の建築可能な範囲を決定します。その中で、患者の動線や駐車場、駐輪場の配置を適切に設計することが重要です。

例えば、エントランス周辺の配置に関しては、歩行者動線と車両動線を明確に分けたいところです。駐車場への出入り口がクリニックの玄関に近すぎると、車両の往来が増えて歩行者の安全が脅かされる可能性があります。

可能であれば、駐車場入口をクリニック入口から適度に離し、利用者が安全に出入りできるような配置が望ましいです。そうした細かな配慮が法律の要件を満たした上で実現可能か、事前に確認する必要があります。

建築物の構造の規模はどのように決めるか

クリニック建築の際には、建物の設計をコンセプトから逆算して検討することが重要です。単に大きく建てるという考え方では、過剰な建築や設備が発生し、運営効率に影響を及ぼすリスクがあります。そのため、診療科目やクリニックのコンセプト、さらに住宅を併設するかどうかなど、具体的なニーズに基づいて構造を決定する方が、長期的な運用面でも有利です。

院内の設備についても、コンセプトに基づいた設置が必要ですが、住宅を併設する場合には、プライバシーを確保するために住宅とクリニックの入口を分けるなどの設計上の配慮が求められます。こうした要素は、建物の構造に大きく関わるため、計画初期段階で決定しておくことが望ましいと言えます。

建築物のメンテナンスを想定しておく

建築後のクリニックは、長期的な運営を考慮したメンテナンスが不可欠です。新築から約10~12年が経過した時点で、一度建物全体の劣化状況を調査することが推奨されます。調査対象には、屋根や外壁の状態、サビの発生、室外機やエアコンなどの設備が含まれ、それらの劣化具合に応じて修理や調整が必要となります。また、外壁の塗装なども15年程度を目安に塗り替えが必要です。

建築時には、どの程度のサイクルでメンテナンスが必要か、またメンテナンスの規模についてもあらかじめ確認しておくことで、長期的な維持管理計画が立てやすくなります。これにより、クリニックの安定的な運営を支えることが可能となります。

まとめ

建築基準法や消防法、都市計画法、ハートビル法、そして自治体の条例といった複数の法律は、クリニックの設計・建築から運営に至るまで影響がある法律です。

これらの法的要件を適切に理解し、敷地と建物の特性に応じて施設の配置や構造を慎重に検討することが、スムーズなクリニック開業、ひいては利用者の安全・快適性を確保し、長期的に安定した運営を行うための基盤となります。

適切なメンテナンス計画を立て、長期的な視点で建物の管理を行うことで、持続可能なクリニック運営を実現していきましょう。

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