1. m3.comトップ
  2. 開業・経営
  3. クリニック開業ラボ
  4. 開業ロードマップ
  5. 電気設備、通信設備、空調設備、給排水

電気、通信、空調…クリニックのインフラ、事前に知っておくべきこと

現代の医療現場では、高度な医療機器と相互接続されたシステムが不可欠であり、その基盤となるのが信頼性の高いインフラ設備です。安定した電力供給、円滑な通信ネットワーク、効率的な空調管理、そして衛生的な給排水設備は、正確な診断、効果的な治療、患者の安全、そして日々の診療業務の効率性を支える重要な要素とも言えます。

本稿では、クリニックの主要なインフラ設備である電気設備、通信設備、空調設備、給排水設備に焦点を当て、それぞれの設計における重要な考慮事項について概説します。

クリニックの電気設備:安全性と機能性の確保

主要な設計考慮事項

医療機器の電力要件

MRIやCTスキャナー、レーザー治療器などの高度な医療機器は、特定の電力要件を持っています。そのため、医療機器に必要な電力容量、重量、LANポート数については、機器のディーラーに確認することが重要です。大型機器の導入は既存の電力容量を超える場合があり、増強工事が必要になることもあります。

配線と接地規格

患者とスタッフの安全を確保し、感電を防ぎ、高感度医療機器への電磁干渉を最小限に抑えるためには、厳格な電気配線と接地の規格を遵守する必要もあります。医療施設の電気設備については、一般的な建物よりも高い安全基準が求められます。

特に診察室や処置室などでは、一般のオフィスなどで使用されるコンセントよりも安全性の高い医療用コンセントの設置が推奨されています。これらの医療用コンセントは、通常のものより耐久性が高く、確実な接地(アース)機能を持ち、抜け防止機能が付いているのが特徴です。万が一の際の感電防止や精密な医療機器を保護するために重要な役割を果たします。

非常用電源システム

停電時にも重要な機能を維持するために、無停電電源装置(UPS)や発電機などのバックアップ電源システムは不可欠です。特に医療現場では、突然の停電が患者の安全や診療に重大な影響を与える可能性があります。

医療用の無停電電源装置(UPS)は一般用とは異なり、より高い安全性と信頼性を持つように設計されています。医療用UPSの特徴としては、ノイズを抑える高品質な電力供給、より長い稼働時間、漏電などのリスクを最小限に抑える安全設計などが挙げられます。特に生命維持装置や重要な診断機器に接続するUPSは、厳格な安全基準を満たす必要があります。

クリニックの規模や診療内容によって必要なバックアップ電源のタイプや容量は異なりますので、専門家に相談して適切なシステムを選ぶことをお勧めします。

照明設計

適切な照明は診療環境において非常に重要です。診察室では正確な診断のために高い照度と適切な色温度が必要であり、待合室では患者の不安を軽減するために柔らかく落ち着いた照明が望ましいとされています。医院の雰囲気を意外と左右するポイントですので、開院後のイメージをもってお選びになるのが良いかもしれません。

コンセントとスイッチの配置

医療機器やその他のデバイスの便利で安全な操作のためには、コンセントとスイッチの戦略的な配置が不可欠です。特に診察室や処置室では、十分な数のコンセントを、使いやすい場所に配置する必要があります。

コストとメンテナンス

電気システムのコストには、初期設置費用(配線、コンセント、パネル、バックアップシステム)、高電力機器のための潜在的なアップグレード費用、および継続的な運用コスト(電力消費)が含まれます。エネルギー効率の高い機器(LED照明など)の選択は長期的なコスト管理に役立ちます。

電気システムの継続的な安全性と信頼性を確保するためには、定期的なメンテナンスと点検が不可欠です。資格のある専門家による定期的な電気安全点検を実施しましょう。

クリニックの通信設備:効率的な運営と患者ケアの促進

主要な設計考慮事項

ネットワークインフラ(LAN、Wi-Fi)

電子カルテシステム、オンライン予約システム、遠隔医療サービス、および内部コミュニケーションをサポートするためには、堅牢で信頼性の高いネットワークインフラが不可欠です。医療機器とスタッフおよび患者の効率的なワークフローを考慮したネットワーク設計が必要です。

患者データ保護のためのセキュリティ対策

敏感な患者データの保護は最優先事項です。これには、ファイアウォール、VPN、データの暗号化、アクセス制御メカニズムなどの堅牢なセキュリティ対策の実装が必要です。データプライバシー規制の遵守も不可欠です。

内部コミュニケーションシステム

スムーズなワークフローと患者ケアの調整のためには、スタッフ間の効率的な内部コミュニケーションが不可欠です。これは電話システムや、専用のコミュニケーションプラットフォームによって実現できます。

コストとメンテナンス

通信システムのコストには、ネットワークハードウェア(ルーター、スイッチ、アクセスポイント)への初期投資、ケーブル配線、ソフトウェアライセンス、および継続的なサービス料金が含まれます。初期設定コストと継続的な運用費の両方を考慮した予算編成が必要です。

クリニックの通信システムの継続的かつ安全な運用を確保するためには、定期的なメンテナンス、監視、およびタイムリーなトラブルシューティングが不可欠。理想的には、ITに強いスタッフがいてくれたり、外部のサポートが受けられたりするとありがたいですが、現実的には何か通信エラーがおこった際などは院長が対応することも多く、不具合が出た時の対応フローは意識しておいても良いかもしれません。

クリニックの空調設備:快適で安全な環境の維持

主要な設計考慮事項

温度と湿度の制御

クリニック内のさまざまなエリアには特定の温度と湿度の要件があり、最適な温度と湿度レベルの維持は、患者の快適さと衛生環境にとって重要といえます。正確な温度と湿度の制御は、患者の快適さを高めるだけでなく、治療環境を作り出し、感染症の蔓延を防ぐ上で重要な役割を果たします。

換気システム

適切な換気は空気の質を維持し、汚染物質や臭いを取り除き、空気感染のリスクを軽減するために不可欠です。効果的な換気は、特に近年のパンデミックを踏まえると、クリニックにおける感染症対策の要となります。

清浄度とろ過

医療環境、特に診察室や処置室では、高レベルの空気清浄度が必要です。空調システム(HVAC:Heating, Ventilation, and Air Conditioning=暖房、換気、空調の略称)には、適切なろ過システムを組み込むことが重要です。

騒音低減

空調設備(HVACシステム)は、患者にとって快適で癒しの環境、およびスタッフにとって働きやすい環境を確保するために、騒音レベルを最小限に抑えるように設計・保守する必要があります。

クリニックでは、以下の理由から静かな環境が特に重要です。

  • 診察中の会話が聞き取りやすくなる
  • 患者の不安やストレスを軽減する
  • 聴診器での聴診など、音を使った診察の精度向上
  • スタッフの疲労軽減と集中力の維持

騒音を抑える対策としては、防音性能の高い空調機器の選択、適切な設置位置(診察室から離す、防振マウントの使用など)、定期的なメンテナンスによる異音発生の防止などがあります。初期投資を抑えたほうが良い側面はありますが、特に新規開業時や設備更新時には、低騒音型の機器を選ぶことで、長期的に良好な診療環境を維持できます。

コストとメンテナンス

空調設備(HVACシステム)のコストは、クリニック開業時の大きな出費の一つです。このコストは主に以下の3つに分けられます。

  • 初期費用:機器の購入費用と設置工事費
    • クリニックの広さや必要な空調能力によって大きく変動する
    • 高機能なフィルターシステムや個別空調の導入でさらにコスト増
  • 運用コスト
    • 電気代
    • 季節や診療時間によって変動
    • 省エネ性能の高い機器を選ぶことで長期的に削減可能
  • メンテナンスコスト
    • フィルター交換(3~6ヶ月ごとが目安)
    • 定期点検費用(年1~2回)
    • ダクト清掃(1~3年ごと)
    • 冷媒の補充や部品交換費用

適切なメンテナンスを行うことで、機器の寿命を延ばし、突然の故障リスクを減らし、常に清潔な空気環境を維持できます。特に医療施設では、空調の不具合は単なる不快さだけでなく、診療の質や患者の健康に直結するため、定期的な点検と迅速な対応が重要です。

クリニックの給排水設備:衛生と機能性の確保

主要な設計考慮事項

給水

スタッフと患者の両方の手洗い設備、医療器具の滅菌、および特定の医療機器の操作には、十分で信頼性の高い清潔な水の供給が不可欠です。清潔な水の安定した供給は、衛生基準を維持し、さまざまな臨床手順をサポートするための基本です。

排水

シンク、トイレ、医療機器からの廃水を適切に処理し、衛生的な環境を確保するためには、効率的な排水システムが必要です。

特に重要なのは「排水勾配」で、これは排水管が水平ではなく適切な角度(一般的に1/100~1/50の勾配)で傾斜していることを指します。この勾配が不適切だと、排水の流れが悪くなり、排水管内に汚水が滞留して臭いの原因になったり、最悪の場合は逆流が起こる可能性もあります。

また、「メンテナンスアクセスポイント」(点検口)も重要な要素です。これは排水管の途中に設けられた点検や清掃のための開口部で、万が一の詰まりや不具合が発生した際に、大掛かりな工事をせずに対応できるようにするものです。医療施設では特に、排水管の詰まりは衛生上の問題だけでなく、診療の中断にもつながるため、適切な位置に十分な数の点検口を設けることが重要といえるでしょう。

シンク、トイレ、その他の衛生設備の配置

患者(障害者を含む)のアクセシビリティとスタッフの効率性を確保するために、衛生設備の場所と数を慎重に計画する必要があります。患者用とスタッフ用の別々の設備を検討し、車椅子利用者のためのアクセシビリティ基準の遵守も重要です。

コストとメンテナンス

給排水設備のコストには、配管、衛生設備(シンク、トイレ)の設置、および継続的な水道料金と下水道料金が含まれます。節水型の衛生設備を選択することで長期的なコスト管理に役立ちます。

漏れを防ぎ、適切な排水を確保し、衛生を維持するためには、給排水システムの定期的な点検とメンテナンスが不可欠です。予防的なメンテナンスは高額な修理を防ぎ、水の継続的な利用と排水を確保します。

医療行為の向上のためのクリニックインフラの最適化

本稿では、クリニックにおける電気設備、通信設備、空調設備、給排水設備の主要な側面について概説しました。これらのインフラ設備は、表面上は目立たないものの、クリニックの運営と医療の質に直接影響する重要な基盤です。

開業時や改装時に適切なインフラ設備を計画することで得られるメリットは計り知れません。

  • 患者の安全と快適性の向上
  • 診断・治療の精度と効率の向上
  • スタッフの働きやすさの向上
  • 長期的な運用コストの最適化
  • 将来的な拡張や技術更新への対応力

一方で、インフラ設備を軽視すると、以下のようなリスクが生じる可能性があります。

  • 機器の不具合による診療の中断
  • 感染管理の問題
  • 修繕のための予期せぬ費用発生
  • 患者体験の質の低下
  • 規制への不適合による法的問題

医療技術の進歩に伴い、クリニックのインフラ設備はますます複雑になり、相互に依存するようになっています。開業計画の初期段階から、建設業者や医療機器メーカーとも緊密に連携し、包括的な計画を立てることが重要となります。

開業物件を探す