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クリニック、物件選びで注意すべきポイント

クリニック開業を検討している多くのドクターにとって、物件選びは経営の土台を築くうえで最も重要なステップといえます。資金調達やスタッフ採用など、開業にはさまざまな準備が必要ですが、立地や契約形態によっては、将来的な患者数の伸びや経営コストが大きく左右されるからです。

また、新規開業か継承開業かによっても物件に求められる条件は異なります。新規開業は、戸建やビル診、医療モールなど多彩な選択肢から理想の場所を作り上げる楽しさがありますが、建築費や設備投資が大きくなる可能性があるなどの課題もあります。一方で継承開業であれば、既存の患者層や内装・機器を活用することで初期費用を抑えやすいというメリットがあります。しかし、継承物件のエリアや形態を絞りすぎると好条件の案件が見つかりにくいこともあるため、両方の選択肢を頭に入れつつ視野を広げることが大切です

本記事では、新規開業・継承開業を問わずクリニック開業を考えている先生方へ向けて、物件選びに必要な基本知識と、現場感に基づいた実践的なポイントを解説します。どのような開業形態であっても、理想のクリニックを実現するうえでのヒントを得ていただければ幸いです。

クリニック開業における物件選びの重要性

物件の選定は、開業後のキャッシュフローを大きく左右する要素です。駅チカの一等地であれば家賃は高くなるものの、人通りが多く集患に有利です。一方、郊外の住宅街であれば家賃を抑えられる半面、駐車場や広い待合室を確保できるなどのメリットがあるかもしれません。また、戸建やビル診、医療モールなど形態によっても収支構造は変わるため、自身の診療方針や得意とする診療科目に合った物件を選ぶ必要があります。

さらに、近年はコロナ禍以降の資材高や労務費の上昇により、建設コストが高くなっています。そのため、新規開業では戸建物件を建てるための初期費用が上振れしやすく、開業を急ぐ先生方にとっては大きな負担となりがちです。こうした背景から、あえて継承案件を探す先生も増えているのが現状です。いずれにせよ、物件選びは単なる立地の良し悪しにとどまらず、地域ニーズや長期的な事業計画とのバランスを見ながら慎重に進めることが肝要といえます。

物件選びの基本ポイント

物件選定の際にまず押さえておきたいのは、クリニックの「立地条件」と「対象とする患者層」との相性です。高齢者をメインに想定しているならバス路線や駐車場確保が不可欠であり、小児科ならば保育園や学校からの動線、さらにはプレイルームの設置やベビーカー置き場などの広さが必要です。また、視認性が高いかどうかも大切で、幹線道路沿いに面している場合や、大きな看板が設置しやすい場合は、自然と通りがかりの患者が増える傾向があります。

一方、都心部のテナントを借りる場合は、上下階に入居する他テナントとの相性や、水回りの配置などに制約が生じることがあります。また、医療モール内にテナントとして参加する場合は、他の科目との連携効果を期待できる一方、運営方針や標榜科目のバッティングに関する取り決めなど、モール独自のルールを確認する必要があります。こうしたポイントを踏まえながら、自院の診療体制に合致する物件を探すことが物件選びの基本です。

物件の種類と特徴

戸建て型

戸建での開業は、内装や外観を理想どおりに設計できる自由度の高さが魅力です。立地次第では、クリニック自体を地域のランドマークにできる可能性もあります。一方で、建物を建てる場合は資材高の影響で準備コストがかさむ点や、完成までのスケジュール管理が難しい点に注意が必要です。特に新規開業では、設計や施工期間が想定より延びるケースもあるため、開業時期との兼ね合いをしっかり調整することが大切でしょう。

ビル診(テナント型)

都市部や駅前で開業を考える際に多いのがテナント型です。もともとの物件数が多いため選択肢が豊富で、一般的には居抜き物件などを活用すれば初期費用を抑えられることがあります。ただし、水回りや電気容量などが既定の条件に合わず、追加工事費用がかさむ事態も珍しくありません。ビルオーナーの意向によっては、看板設置や診療時間の設定にも一定の制約が発生する場合がありますので、事前にしっかりと確認しましょう。

医療モール型

医療モールは、周辺地域の患者さんに複数の科目をワンストップで提供できるため、開業後も相互紹介などのメリットが得られやすい形態です。看板や駐車場などを共同利用するため、個別で整備するより費用を抑えられる点も見逃せません。ただし、モールを企画する会社や薬局の意向で、テナントの科目構成や設備投資先がある程度決まっているケースもあります。特に契約面で細かなルールがあることが多いので、入居前のすり合わせは念入りに行う必要があります。

物件探しの方法

物件探しは、一般的な不動産ポータルサイトやクリニック向け物件専門サイト、不動産会社への直接相談など、さまざまなルートで行うことができます。勤務医として築いた人脈を活かし、医局や医師会、あるいは友人の開業医から「好条件の物件がある」という情報を得られることもあるでしょう。

また、開業コンサルタントや医療専門の不動産会社に依頼するのも有力な手段です。こうした専門家は、医療物件の契約形態や必要なインフラ条件(電気容量やバリアフリー対応など)について豊富な実績とノウハウを持っています。契約の進め方や交渉のポイントなど、医師一人では見落としがちな部分をサポートしてくれるため、最終的な費用対効果を高められるケースも少なくありません。

診療圏調査の重要性

良い物件が見つかっても、その地域にどの程度の患者需要があるのかを把握しないまま契約するのはリスクが高いといえます。診療圏調査では、周辺の人口動態や年齢構成、競合クリニックの有無をもとに、将来的な来院予測を立てます。診療研調査そのものにも課題はあると言われますが、例えば、小児科であれば子育て世帯の多い新興住宅地、整形外科であれば高齢者の多いエリアが向いているなど、地域特性を客観的に見極めるためには欠かせない作業とも言えます。

近年は、継承物件を考える場合でも、既存の患者数や収益データを確認したうえで、自分の専門やコンセプトに合った診療圏を再評価する医師が増えています。実際に通院している患者像と、今後取り込みたい患者層が一致しているかどうかを冷静に分析することが、開業後の安定経営へつながっていきます。

物件選定時のチェックポイント

クリニックの規模感や診療方針を実現するためには、物件の広さや間取りが適切であることが必須です。待合室や診察室、処置室の動線が効率的かどうかは、開業後の患者満足度にも直結します。たとえば、小児科であればベビーカーが多くなることを想定して動線を広めに確保し、整形外科ならリハビリ機器の設置スペースを十分確保しておくなど、想定する診療内容と照らし合わせながら最適なレイアウトをイメージしておきましょう。

同時に、電気容量や給排水設備、バリアフリー対応など、医療機関ならではの設備要件を満たしているかどうかの確認は欠かせません。とりわけCTやMRIなどの大型機器を導入する予定がある診療科は、テナントビルの場合エレベーターサイズや耐荷重の問題など、思わぬところで壁にぶつかることも。医療モールに入居する場合も、共用部のスペックや消防法などで制限がないかを細かくチェックしておくことが重要です。

物件契約時の注意点

契約形態には「普通借家契約」と「定期借家契約」があり、更新時の扱いが大きく異なります。通常は普通借家契約が主流ですが、定期借家契約だと契約期間満了とともにクリニックの運営継続ができなくなる可能性があるため、将来の見通しを含めて慎重に検討する必要があります。

賃貸の初期費用としては、敷金(保証金)や礼金、不動産仲介手数料などがありますが、物件によっては想定外の負担が出るケースもあります。賃料が高額なテナントほど、契約時に支払う一時金が数百万円単位にのぼる場合もあるため、銀行融資などを受ける際に開業資金全体として盛り込んでおくことが大切です。特に継承案件の場合は、クリニック自体の譲渡資金とは別に不動産契約を締結し直すケースもあるため、事前に資金計画をしっかりと立てておきましょう。

まとめ

物件選びは、クリニック開業において最初にして最大のハードルといえます。新規開業ならではの自由度の高さと初期投資の大きさ、継承開業における患者基盤の引き継ぎやコスト削減など、それぞれに異なるメリット・デメリットが存在するため、ご自身の診療方針やライフプランに合った選択をすることが大切です。

選んだ物件が本当に自院の強みを発揮できるかどうかを見極めるうえでは、診療圏調査や設備要件の確認、契約条件の精査が欠かせません。医療物件に精通した不動産会社や開業コンサルタントなど、専門家の力を上手に借りながら、十分な情報をもとに最適な判断を下しましょう。

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