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クリニック開業、立地の決め方・判断軸は?

クリニックの開業において、「立地ですべてが決まる」という方も珍しくないほど、立地選定は最重要要素の一つといえます。クリニックの場所は集患に直接影響し、経営の安定性を左右するため、交通の利便性、競合クリニックの有無、周辺の人口動態、将来の発展可能性など、複数の要素を慎重に検討する必要があります。今回は、現役開業医がどのように立地を決めていったのかも含め、開業立地の決め方をテーマに解説します。

エリア選定の前に確認すべきポイント

m3.comが開業医の方々に実施した意識調査によると、クリニックの立地として最終的に選んだ場所として最も多かったのは「出身地・地元の近く」で51.1%。半数以上の先生が慣れ親しんだ場所で開業していることがわかりました。近辺の人口や需要、交通の利便性などが把握しやすいことや、生まれ育った場所で地域医療に貢献するという意識も強いのかもしれません。

地元とまでいかないまでも「元勤務地の近く」という馴染みのある場所が22.6%で2位となっています。元勤務地の近くであれば前の職場での患者さんがそのままついてきてくれることや開業に適しているかどうかも把握しやすいため、継承などの理由がなければ出身地の次に多いのは納得の結果と言えそうです。

15.1%の先生は「土地勘のない場所」を選ばれています。「そのほか」の例として挙がった中に「循環器科なので循環器科のない所(50代)」、「知り合いの調査(男性、皮膚科系、60代)」というコメントもあったように、リサーチした結果、馴染みはなくとも最適と思える場所に出会えた先生もいるようです。

最終的に開業した土地の割合グラフ

開業立地、重視項目としては「交通の利便性」が最多の6割

続いて、立地を選ぶうえで重視した項目を選んだところ、最も多かったのは「交通の利便性」で61.6%。これに「診療圏における人口の多さ」(51.5%)や、「競合となる医療機関との位置関係」(45.2%)などが続いています。

立地を選ぶ上で重視した項目のグラフ

【開業立地の決め手・悩みに関する「現役医師の声」】

勤務先の病院の近くで開業したので、今まで見ていた外来患者さまを、そのまま継続してみることができた。診療の連続性を保つことが重要と考える。(内科その他、40代)

あまりに住宅地の真ん中だと避けられる傾向があるようです。当院より後に開業したところは苦戦されているようです。(糖尿病、40代)

出身地ではあるがど田舎なので、マーケッティングからいくと場所を変えずに継承開業となれば、今後の人口減少に対応できるかが心配で、人口増加がわずかでも見込まれそうなところへの移転を考えたが、父のご近所の患者さんをどうするのかとの一言でボツになった。今思えば移転すべきだったが、在宅医療に重点を置く方向転換で現在は何とか移転なしでも食べていけている。(循環器科系、50代)

もっと元勤務先の病院に近い方が良かったが、バブルで高くて購入出来なかった。(内科その他、70代)

立地条件に妥協を許さない姿勢を貫いたため、開業まで20年近く要した。(腎泌尿器科系、60代)

賃貸か、購入か悩んだ。結局、安く借りられたので、賃貸になった。(脳神経系、50代)

土地代が高かった(腎泌尿器科系、50代)

開業するクリニックのコンセプトと診療科目の特性理解

エリア選定は、自分が開業するクリニックのコンセプトや診療科目の特性を理解するのが第一歩。診療科目によってターゲットとする患者層は異なるため、それに合わせたエリアを選ぶことが重要です。小児科ならば、若年層が多い住宅街が適しているかもしれませんし、整形外科や内科の場合は、働き盛りの成人層が多いオフィス街や駅前のエリアが有利に働く可能性があります。

また、診療時間帯における人口動態をよく理解しておくことも重要です。オフィス街の場合、平日の日中はビジネスマンが多い一方、休日や朝晩には人が少なくなることが考えられます。このような時間帯ごとの人口動態を把握することで、効率的な診療時間の設定や集患戦略を立てることが可能になります。

開業予算と規模の設定

開業にかかる予算やクリニックの規模設定もエリア選定において重要な要素です。都心部での開業は賃料が高額になるため、資金計画をしっかり立てる必要があります。都心部は一般的に賃料が非常に高く、開業時の初期費用だけでなく、ランニングコストとしても大きな負担がかかることが多いため、資金調達計画を慎重に立てることが求められます。さらに、都心部での開業は集患力が高まる反面、競合も多いため、競争に打ち勝つための差別化戦略も必要です。

一方で、郊外では賃料が低く抑えられるため、初期費用およびランニングコストを軽減することができますが、立地が悪いと集患に工夫がいる場合があります。郊外の場合、地域に密着した医療サービスを提供し、長期的な関係を築くことが重要になるため、患者アンケートの結果を人事考課で重視してみたり、地域イベントを開いてみたりして、意識的に「地域住民との信頼関係構築」に努めてみるのも良いかもしれません。

このほかエリア選定においては、「賃料以外」のコストがかかることも念頭に入れておきましょう。例えば、スタッフの人件費はエリアによって大きく異なることがあります。都心部ではスタッフの確保が比較的容易ですが、人件費が高くなる傾向がありますし、郊外では人件費を抑えやすいものの、優秀なスタッフの確保が難しい場合も。クリニックの規模によって必要なスタッフ数も変わってくるため、スタッフの人件費も含めた「総合的なコスト計画」が不可欠です。

立地環境ごとの特徴とメリット・デメリット

立地環境によってクリニックの運営における強みや課題は大きく変わってきます。以下では、都心と郊外、住宅街と繁華街、ビル診療とテナント診療といった立地条件ごとの特徴を理解し、それぞれのメリットとデメリットを把握することで、適切な選択を行うための指針を提供します。

都心か、郊外か

都心部では交通アクセスが良く、患者数の増加が見込まれますが、賃料が高く、競合が多いことがデメリットです。一方で、郊外では賃料が比較的安価で、地域密着型の経営が可能となりますが、患者の流動性が低いため、集患に時間がかかる場合があります。

住宅街か、繁華街か

住宅街での開業は、ファミリー層や高齢者をターゲットにした長期的な関係を築くことができ、安定した患者層を確保することができます。ただし、住宅街ではプライバシーを気にする患者も多く、特定の診療科目では通院を避けられる可能性があります。

一方、繁華街では流動的な患者層に対して高い集客効果が期待できます。特に通勤・通学者向けに診療時間を工夫することで、集患力を高めることが可能です。

ビル診療か、テナント診療か

ビル診療は、物件の賃料が比較的安価で、特に上層階に位置する場合はコストを抑えることが可能です。しかし、上層階にあるクリニックは視認性が低く、認知度が下がりやすいデメリットもあります。

一方、テナント診療は地上階に位置することが多く、視認性が高いため、患者の認知が得やすいことがメリットです。しかし、賃料が高額になる傾向があるため、コスト管理が肝心です。

開業エリア選定の成功事例と失敗事例

【開業の立地選定「満足」と語る医師の実例コメント】

小さく開業して、駅近に移転。自宅兼診療所。大き目の駅で、便利。研究会にも30分以内に行ける。(眼科、60代)

ライバルが少なく、立ち上がりが良かった。駅近くで患者数が減ったが維持できている。(眼科、60代)

勤務地で診ていた患者さんを引き継いで診ることができ、集患に苦労しなかった。(内科その他、40代)

駅から多少離れているが、駐車場の確保がしやすい。(耳鼻咽喉科、60代)

駅から2分で、新患がコロナ前は年に約200名、開業後10年間は年に500名。(外科系、70代)

郊外型に最適な県道沿線で、交通の便も良い。(消化器科系、80代)

電車、バス、タクシーの利便性が良い場所にある。(呼吸器科系、70代)

人口構成や競合医院の面でメリットがあった。(小児科系、50代)

競合が少ない立地で、患者の数が安定している。(糖尿病、40代)

徒歩圏内で、子育て中のストレスが少なかった。(眼科、50代)

【開業の立地選定「不満足」と語る医師の実例コメント】

ど田舎で人口減少が進み、患者の増加は期待できない。自然環境は良いが、それ以外の面で悩みがある。(循環器科系、50代)

主要道路から2本以内にないため、診療所が知られにくい。(耳鼻咽喉科、50代)

大雨で浸水しやすいことがわかった。(内科その他、60代)

都市部から離れているため、医師の確保が難しい。(産婦人科系、70代)

開院当初と比べて人口と年齢分布が変わり、患者が減少した。(小児科系、30代)

エリア選定に役立つ情報源とサポート

エリア選定には、医療用不動産に詳しい不動産会社や開業コンサルタントに知見を借りるのも一手です。これらの専門家は、医療機関に特化した物件情報を持っており、クリニック開業に適したエリアや物件を見つける手助けをしてくれます。また、開業コンサルタントは診療圏調査や競合調査のサポートも提供しており、リスクを減らしながら開業を進めることが可能となります。

慎重なエリア選定が成功の鍵

重ねての強調となりますが、クリニックのエリア選定は、開業の成功を大きく左右するポイントであり、診療圏調査や競合調査、人口動態の把握、交通アクセスの評価など、あらゆる要素を総合的に検討する必要があります。専門家のサポートや地域の情報源を活用し、リスクを最小限に抑えることを意識することが重要です。

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